第49話 緑髪の公女(9)
「ちょっと喉かわいたね……」
お登勢さんは、うなじに浮かぶ汗をタオル、いや、垂れる自分の乳で色っぽく拭きあげた。
「旦那もなにか飲むかい?」
ブルブルと首を振るセレスティーノ。
というのも目の前では、これから抗争に臨もうとするレディースの総長が長い鎖をグルグルと回すかのように、お登勢さんが自分の両乳をブルンブルンと回していたのである。
その様子はまるで双発戦闘機 百式司令部偵察機!
いわずもがな太平洋戦争開戦から終戦まで常に活躍し続けた名機の中の名機である!
そして、そんなお登勢さんもまた、このホテルニューヨークの開業から現在までを支える名器の中の名器なのである!
そんな百式がすでにセレスティーノをロックオンしているのだ。
こんな状況で、とても湯上りのミルクが飲みたいなぁ~などと言えたものではなかった。
「じゃぁ、私だけいただくとするかい……ドンペリ10本!」
廊下に顔をだし黒服と話すお登勢さんを見てセレスティーノはチャンスだと思った。
音をたてずに慎重に腰をずらす。
そしてゆっくりと、部屋の奥にある窓へとすり寄っていったのだ。
少し腰を上げ窓から下を覗く。
どうやらここは二階のようである。
――ココから落ちたら痛いかな……
だが、このままココにいればもっと痛いことが待っているのだ。
すでに両脇の毛は抜かれ、ツルツルになっていた。
もうあとは、下の毛を残すのみ……
――いやだあぁぁぁぁぁ!
ということで、やっぱり飛び降りようと思ったが、飛び降りて首でも折ったら大変なことである。
死ぬのはもっとイヤ!
――って、そういえば俺、騎士だった!
そう、騎士は不老不死!
こんなところから落ちたぐらいでは死にはしない! はずなのだ。
ならばと言うことで! セレスティーノはすくっと立ち上がる。
「それではご婦人! もう二度と決して絶対に会うことはないだろう! アデュー!」
一応、セレスティーノは変態といえども、レディにはめちゃくちゃ優しい性格なのだ。
だからこそ、相手が年増の奴隷女といえども、ちゃんとお別れの挨拶はするのである。
だが、悠長に別れの余韻を楽しんでいる場合ではなかった。
そう、セレスティーノの目の前では、振り返るやいなや蛇ように大きな口を開け広げて襲いかかろうとしているお登勢さんの体が、すでに宙に浮いていたのだ。
シャァァァァァ!
危な! ブル!
本能的に体が震えるセレスティーノ。
あんなものに捕まりでもしたら、不老不死の騎士と言えども確実に死んでしまう。
――迷いは自分を殺すことになる。ここは戦場だぞ!
ということで、裸一つで躊躇なく地面へと飛び降りたのだ。
「セレスティーノ旦那! この体のほてりはどうしてくれるんだい!」
そんな窓の奥からお登勢さんの怒鳴り声が聞こえてくる。
「(セレスティーノ旦那を)なぜ落とせん!? 私にためらいがあるのか! まだだ、まだ終わらんよ!」
知らんがな! お前は、クワトロ・バジーナか!
そんなことよりも、今はもっと大事なことがある!
セレスティーノはとても焦っているかのように先を急いで走っていた。
「大変だ! 遅刻だ! 遅刻! 学校に遅れるぅぅぅ!」
って、学校かよ!
先を急ぐセレスティーノには心に秘めたある野望があったのだ。
それは、いつか融合国の実権を自らの手中に納めるというもの。
ということでその野望を叶えるため、セレスティーノには毎朝、学校でしなければいけないことがあったのである。
そうそれは、宰相であるアルダインの愛娘アルテラに拝謁して、恒例の朝のご挨拶をすること!
そして、アルテラの気を引いたのちには、あわよくば婚姻して、アルダインの権力を得ようという魂胆だったのである。
なんか……せこい……
だけど、まぁ、こういうまめな行動がいつかは実を結ぶかもしれないよね!
そんな野心むき出しの登校途中、フルチンで手錠をつけた変態姿のセレスティーノは、次元やフジコチャンたちとの待ち合わせに遅れて困りはてていた剣士 石川県在住の五右衛門と出会ったのだ。
「おぬし……ルパンを知らぬか……」
「ルパン? あぁ、オイルパンなら、あっちで女たちと走っていたぞ!」
「そうか! かたじけない! せめて感謝の証として!」
斬念剣によって手錠の鎖を切ってもらった上に、武士の情けと言うことで、身に着けていたふんどしまでもらったのである。
あざ~す!
ということで、今に至る!
そんなセレスティーノはふらふらとしながら、教室の中に足を踏み入れた。
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