第67話 鑑定の神はおばあちゃん?(2)
この少し前、ということで、はい! 早戻し!
キュルキュルキュル!
って、これだとビデオテープの巻き戻しか……
ガチャ!
ゴミ箱の中から救出されたベッツは、怒り狂った父親のモンガに首ねっこを掴まれて自宅であるルイデキワ家の居間の中まで引きずられて戻っていたのであった。
「ベッツ! 覚悟しろよ! ばあちゃんにも怒ってもらうからな!」
そこは、少々薄暗い12畳ほどの畳の部屋。
だが、いぐさの香りとは程遠い強い香水の香りとたばこの煙が漂っていた。
床の間を背に一人の女が椅子に腰を掛けている。
椅子? いや椅子ではなく一人の若い男を四つん這いにして、その上に座っているのだ。
しかも、両脇には膝をつく二人の男が仰々しくお供え物を捧げるかのように太い腕を支えているではないか。
なんだこの光景?
ま……まぁ、このような女王様系のシチュエーション、美魔女であれば絵になるのだが、残念ながらこの女はブ魔女なのだ……
おそらく年のころ60歳ぐらい。
豊満なボディによってつくられる三段バラは、煙草を吸うたびにプルンプルンと揺れている。
えっ? 背もたれはどうしたって? 背もたれは横の男の首にまとわりついているから必要ないんだとよ! 巻き付かれている男はたまったものではない。
この女、名前をペンハーン=ルイデキワ。ベッツのばあちゃんで、モンガの母親である。
「なんだい! もうすぐ昼飯だというのに騒がしい!」
ペンハーンがうっとおしそうに入り口の障子に目を向けた。
モンガはベッツの頭を押さえ、その場に無理やり座らせようとする。
「母ちゃん聞いてくれよ! ベッツの奴、半魔の奴隷女を連れ出して、宿場町に魔物を呼び寄せたんだぜ! しかも、そのせいで町中、人魔だらけになっちまうしさ」
ペンハーンの目がギラリとあぐらをかくベッツを睨み付ける。
「ベッツローロ、それは本当かい?」
そうそう、ベッツの本名はベッツローロだった。忘れてたよ。
ベッツは、小刻みに震えたままうつむき何も言わない。
もしかして、この婆ちゃんに怒られることをおびえているのだろうか。
「ベッツローロ! 黙ってたら分からないじゃないか!」
ベッツの震える唇がようやく動く。
「俺はちょっと半魔の女を連れ出しただけだよ……あとの事は、俺のせいじゃないし……」
それを聞いたペンハーンの目がにこやかに変わった。
「そうかい。そうかい。やっぱりベッツローロは悪くないね」
「そうだろ、ばあちゃん!」
ぱっと明るくなるベッツの顔が、いきおいよく跳ね起きるとともに押さえつけていたモンガの手を跳ね飛ばす。
ペンハーンはニコニコと続ける。
「なんてったってベッツローロはうちの『おでん組』のセンターなんだからね。それぐらいのことは、大目に見てあげなよ。モンガ」
おでん組とは、ペンハーンがプロデュースする全く人気のでない男性ユニットのこと。
現時点で活動するメンバーは、コンニャ! スージー! 玉五郎! の三人である。
そして、今、ペンハーンが尻に敷く男や、両サイドでひじ掛けにしている男たちが、実はそうなのだ。
モンガは口から唾を飛ばしながら泣きわめいていた。
「母ちゃん! そうはいっても、宿場町はもうめちゃくちゃなんだよ」
「それぐらいなんだい! うちのおでん組があのアイナに勝ってヒットチャートを独占すればそれぐらいの金額、簡単に回収できるんだよ!」
「母ちゃん……おでん組じゃ、あのアイナには勝てないって……アイナなんか調子こいて長期休暇を取っているって言うじゃないか……」
「モンガ! 何言ってんだい! それは、ウチに負けを認めろと言うのかい! あのいまいましい金蔵
ペンハーンが鬼のような形相でモンガとベッツを睨んでいる。
ひぃぃぃぃ!
すでに生きた心地がしないモンガとベッツ。
というのも、ペンハーンは何かと金蔵勤造の妻である
今や、その
だが、アイナはトップアイドルの座を不動のものにしたと思ったら、写真集「ラブレター」の発行を最後に、「ちょっとの間、普通の女の子に戻ります♥」と一時休暇を言い残して表舞台から姿を消したのだ。
それでもアイナの人気は衰えない。
それどころか、今でもあらゆる場所でアイナの歌や写真が流れているのだ。
これを快く思わないペンハーンは、男性ユニットである「おでん組」を組織して、これに対抗するが、この小説同様、まったく人気が出ない。
ちっ!
――
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