第45話 緑髪の公女(5)
「惜しい! 残念!」
――えっ? どういうこと?
ローバンの頭の中は真っ白になった。
「問題は最後までよく聞きましょう! では、もう一度、問題です。騎士がもつ神民枠の数はあらかじめ決められており、当然、その枠を使い切ってしまうと……騎士の門外のフィールドを維持することができなくなりますが、その神民数を使い切った騎士はどうなるでしょう?」
ピンポーン
「コウスケ君!」
「王により、新たな騎士へと交代が行われます」
「正解! すごいな! コウスケ! お前、意外に勉強しているじゃないか!」
ヘヘン!
得意げに鼻をこするコウスケ。
その横でがっくりとうなだれているローバン。
――もしかして……私は……負けたの……負けてしまったの……
ウワァァァァァァァァン
突然に泣きだした。
そんなローバンにコウスケがハンカチを手渡した。
「ローバンさん、みんなで一緒に走りましょう! ワンフォーオール! オールフォーワンです!」
それを聞くスグルが涙ぐんでいた。
「コウスケぇ~よくぞ言った! それでこそ俺の生徒だ! さぁみんな! 夕日に向かって走るぞぉぉぉぉ!」
なんか、暑苦しい……
見ているだけで暑苦しいんですけど……
ということで、ハンカチで涙を拭き鼻までかんだローバンが、しらけた目でスグルを見ていた。
「って、まだお昼前ですよ……」
「何ぃぃぃぃぃぃい!」
それを聞くスグルは叫び声をあげた。
「一体いま何時だと思っていたんですか! スグル先生!」
ローバンが、コウスケにハンカチを返しながら突っ込んだ!
って、使ったハンカチはせめて洗ってから返そうよ……女の子、いや、人として……
コウスケはそんな先生に困惑の目を向けた。
「どうします、先生……」
「コウスケ……仕方ない、とりあえず夕方まで銭湯にでも一緒に行くか?」
「はい!」
って、お前らこの後の授業をさぼるつもりかよ!
『自習!』
そうスグルは大きく黒板に書くと、生徒たちに声をかけた。
「自習は課外活動でもいいぞ! ただし、ちゃんとレポートは出せよ!」
おぉ、まるで先生!
やっと教師らしい事を言い出したではないか。
え~!
当然、生徒たちの反応は予想通り。
面倒くさそうなブーイングがいたるところから上がった。
まぁ授業としておこなうのだから、レポートの提出は仕方ないよね。
となると、課外活動といえば、貧しい人たちへの炊き出しなどのボランティアとかなにかだろうか?
「課外活動は、食レポでも、カラオケでも、銭湯巡りでも、なんなら家に帰ってゲームでもいいぞ!」
って、それでいいんかい!
課外活動ていうからには、授業の一環とちゃうんかい!
もうそれなら、ただの下校と同じやん!
そんなスグルは遠くを見るような目で思いをはせる。
――人生に無駄になるようなことは何もない! そう、すべからく人生の学びなのだ!
というか、この男、自分がニューヨークと言う名の銭湯に行くための口実をただ単に欲していただけなのではないだろうか。
「ハイ! 先生!」
一人の女子生徒が手を上げると、冗談ぽく質問した。
「レポートは写メでもいいですか!」
はぁ? 君ね……レポートとは報告書のことだよ……いっぺん辞書で調べてみ!
普通に考えて、写メでいいわけないだろうが! このバカチンが!
ニャン八先生なら、きっと前髪をかき上げながら怒っているに違いなかった。
「おお! 写メでいいぞ! 何ならチェキやプリクラでも構わんぞ! それがない奴は白紙に念写でもしとけ! ちゃんと出席扱いにしといてやるからな!」
スグル先生はニコニコと答えた。
おいおい! 念写って……いつからここはエスパー養成学校なったんだよ?
いやいや、ここはもとから神民学校、エスパーなど存在しません!
それなら、それは念じただけのタダの白い紙ですニャン!
「やったー」
「さすがスグル先生!」
女子たちは、めいめいにお決まりのテリトリーへと集まってお喋りに花をさかせる。
その横で男子たちはというと、友達と馬鹿を言いながら部活のユニホームに着替えたり、カードゲームを机一杯に広げたりして遊んでいた。
そんな雑然とした教室の中でアルテラだけは、一人ポツンと窓際の机で使った教科書をカバンの中へとしまっていた。
まるでその場所だけが海の孤島であるかのように、アルテラの周りには誰も寄り付こうとしなかった。
なぜなら、アルテラのような緑の髪の女は、
その髪色の緑が濃ければ濃いほど、魔物がとりついていると固く信じられていた。
そのため、そんな緑女らに触れられでもしたら、簡単に人魔症にかかってしまうなどという根も葉もない迷信が信じられていたのである。
そのいわれもない迷信のために緑女たちは、差別的で悲惨な人生を送ることになる。
それは、牛馬よりもひどい扱い。
見世物小屋で発情した豚の相手をさせられたり、魔物捕獲用の寄せ餌にされたりと、すでに人間として扱われることがなかったのだ。
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