第22話 黒の魔装騎兵と赤の魔装騎兵(6)
そんな時であった。
鶏蜘蛛の背後から一人の学生服姿の男がさっそうとかけつけてきたではないか。
だが、背後から魔物を切りつけるわけでもなく、わざわざ鶏蜘蛛の正面にグルリと回り込んできた。
そう、そこにはちょうど野次馬として集まっていた女たちの集団が。
そんな女たちに自分が一番かっこよく見える斜め45度のポジションに直立しポーズを決めた。
「イケメンアイドル! セレスティーノですッ!」
途端に、
きゃぁぁぁぁっぁあ♥
セレスティーノさまぁ♥
団扇を振る女たちの集団から黄色い悲鳴が沸き起こった。
ウェーブのかかった長い金髪を肩まで垂らすこの18歳ほどの若い男は、バレェダンサーのように背筋が涼やかに伸びる高身長。
実は、第八の騎士の門を守る騎士なのである。
そんなセレスティーノは、髪を片手でさっとかき上げると、背にする女たちに流し目を送った。
「レディのみなさま、お怪我はありまんか?」
すでに目をハートにしている女たちはうっとり……
きゃぁぁぁぁっぁあ♥
セレスティーノさまぁ♥
全く、聞いちゃいねぇ……
だが、そんな女たちの歓声に慣れっこのセレスティーノは、すぐさま一人一人の女たちの容姿を品定めしはじめた。
――この女は30点、うーん43点……うん⁉
そんな視線がピタッと止まった。
美しき女性たちの中に、明らかに異質なものを見てとらえたのだ。
白い羽のようなレースで装飾されたピンクの衣装はスベスベとしていて、とても可愛いらしい。
まぁなんか、鶏蜘蛛と同じ雰囲気を漂わせているが、きっとそれはドレスが化繊の安物だからなのだろう。だって、ココは街はずれの宿場町。貧乏人も多いのだ……仕方ない。
そのピンクのドレスからこぼれる肩は、これまたガッシリとかなり大柄。
うん、これも格闘技なんかしていればありうる話。チャンピオンだったりしたらなおさら……ま、まぁ、良しとしよう……
ピンクのミニスカートと白いオーバーニーソックスが作り出す絶対領域からは、少々毛深い太ももがのぞいている。
…………うん?
赤いリボンが映える美しい金髪の下からは、割れたアゴとむさくるしい無精ひげがのぞいていた。
……って、オッサンじゃないか!
とっさにセレスティーノはひきつる顔を鶏蜘蛛へともどした。
女たちの視線から、驚きで醜く歪む顔を本能的に隠したのだ。
そんなセレスティーノの鼓動が自然と速くなる。
呼吸が荒くなっているのが自分でも分かった。
……恋⁉
――そんなわけあるかい!
「セレスティーノさまぁ♥」
そんな様子に気づかない野次馬の女たちは両の手を固く握りしめ目をキラキラさせていた。
「ゼレスディーノさまぁ♥」
そして、ピンクのオッサンもまた両の手を固く握りしめ目をギラギラとさせている。
セレスティーノは心の中で握った拳を震わせた。
――ゼレスディーノさまじゃねぇよ! オッサン!
そう、これでもこの界隈ではイケメンアイドル(自称)で通っているのだ!
――暴力はいけない……暴力は……相手がいかに人外のモノであっても、暴力はダメだ!
咄嗟に声が出そうになるのをグッとこらえ、自分に強く言い聞かせるのだ。
セレスティーノは大きく深呼吸し自らを落ち着かせると、気を取り直すかのように記憶の中で、先ほどちらっと見た女たちの顔をもう一度思い出しはじめていた。
そう、セレスティーノはとっても頭脳明晰(自称)なのである。
――30点、うーん43点、これは……人外論外問題外! おぉぉ、これは80点! 上玉がいるじゃないか!
その女性は、周りの女たちとは異なり、セレスティーノに興味を示すそぶりを全く見せない。
しかも、胸のところが破れているのか、布を引っ張り必死に手で抑え隠そうとしているではないか。
その姿、いやシチュエーションが、実にエロい! 実にいい!
――しかも、俺に興味を示さないところが、おもしろい!
こんな女を時間をかけて徐々に俺色に染め上げる!
――あぁぁ! Sの心に灯がともるぅぅ! よし! 10点プラスで90点!
そう、この90点の女こそ、先ほどまでベッツ達に襲われていた半魔女であった。
ベッツ同様に何とか無事に街まで逃げてこられたようである。
よかった。よかった。
って、ベッツはどこに行ったんだ?
――ちゃんとそこにいるよね! ベイビー!
セレスティーノはそんな上玉の女性の存在を、再び流し目で確認しようとした。
「きゃぁぁぁぁっぁあ♥」
歓声を上げる女たち。
女の中に混ざるピンクのオッサンも同様に歓喜の声をあげながら隣の女に声をかけた。
「ねぇ、ねぇ、みだ⁉ あれ、きっとワタジを見だのよ! ワタジを!」
――おめえじゃねえよ! その隣だよ!
心の中で握るこぶしを振り上げるセレスティーノであった。
だが、今は人外のモノを相手にしている暇はない。
そう、今夜は90点の女とランデブー! ドッキングだ!
そんな淫乱な性格のセレスティーノの目は、すでにいやらしく緩み切っていた。
――はっ! いかん! いかん! ついつい今日のアクロバティックハードプレー・トリプル・ルッツルツルを想像してしまったではないか。
ちなみにトリプル・ルッツルツルとは、ベッドの上で回転しながら三か所の毛を……って、説明なんかせんでもええわい!
ようやく気を取り直したセレスティーノは鶏蜘蛛をにらみつけ、右
右肘から剣先が、さながら一本の槍のように美しく鶏蜘蛛を捉えていた。
「この淫乱! いやイラン‼ デブ! 薄汚い魔物ふぜいが、我が愛しきランデブーを邪魔することは許さん」
もう、欲望丸出しのお前の方が薄汚い淫乱だ! セレスティーノ!
「きゃぁぁぁぁっぁあ♥」
だが、都合のいい女と思われているとも知らない女たちは黄色い悲鳴を上げる。
「ギャァァァァっぁあ♥」
そして、人外と思われているとも知らないピンクのオッサンも茶色い奇声を上げていた。
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