第80話 いざ、門外へ!(3)
しばらくすると、ヨークは一人の男と共に宿舎から出てきた。
入り口前で男はヨークと別れると、そのまま第一の騎士の門を警護している守備兵たちのもとに赴きなにやら話し始めた。
一方、ヨークは自分の馬を引きながら、タカトたちのもとに戻ってくきた。
「さぁ、少年! 門外のフィールドに入るぞ!」
その掛け声とともに自分の馬にまたがった。
両開きの騎士の門に守備兵が数人ずつそれぞれ別れると、壁のような門を力強く押していき始めた。
重厚な門にも関わらず、意外にも静かに開いていく。
それはまるで映画の幕が開いていくかのように門の枠内にだけ、こことは違う世界が写し出されていくようであった。
ゴーン
門が鈍い音をたてると、押し広げていた守備兵たちの動きが止まった。
そう、第一の騎士の門が完全に開ききったのである。
突如、一般街の街並みの中に大きな穴があいたかのように、門の中には荒野と澄みきった青空が彼方まで続いていた。
そう、門から向こう側は第一の門外のフィールド。
タカト達が今いる融合国とは違う世界である。
そして、見てわかるように第一の騎士の門外は荒野のフィールド。
草木も少ない荒れ果てた大地なのである。
門外には少々強い風が吹いているのだろうか。
見渡す限り平らな大地に、砂埃が舞い散っている。
平らの大地の上に、ところどこに枯れたはてた茂みがポツリポツリと見えるのが、一層、このフィールドの寂しさを掻き立てる。
門前広場で馬を進めるヨークは手をあげ第一の門の守備兵たちに挨拶をかわす。
そして、意気揚々とタカトたちを引き連れ門外の荒野のフィールドへと入っていった。
ヨークたちは、門外のフィールドにある第一の駐屯地を目指す。
騎士の門外のフィールドの中には、聖人国と魔人国の境界線が存在する。
そして、その境界線近くに存在するのが、守備兵たちが守りを固める駐屯地である。
すなわち、聖人国と魔人国の争いの最前線。
そのため、毒消しや、傷薬といった消耗品も枯渇しやすいのだ。
ヨークは、タカトたちに話しかけた。
「門外は戦場だ。だから、普通に魔物が襲ってくるからな。十分に気をつけろよ」
「えー…… 気を付けろって言ったって……でも、ここら辺は聖人国のフィールドだから、大丈夫だよね」
ビビりながらタカトはヨークに確認を取った。
そう、騎士の門外のフィールドは、聖人国のフィールドと、魔人国のフィールドに二分されている。
そして、そのフィールドとフィールドの接するところが境界なのである。
この境界、実は、日々、動くのである。
聖人国側の騎士が所有する神民数と、魔人国側の騎士が所有する神民魔人との割合によって、その境界が揺れ動いているのだ。
今、タカトたちが踏み入れたフィールドは、聖人国側の騎士の門に近いため、当然、聖人国のフィールドの中である。
聖人国のフィールドでは、神民は『神民スキル』、まぁ、有名なところでは魔装騎兵が持つとされる『限界突破』や、騎士が使える騎士スキルである絶対防壁『騎士の盾』を使うことができる。
だが、もし、仮にだが、聖人国内のフィールドに神民魔人や魔人騎士が侵入してきたとしたら、自軍のフィールドと異なるため神民魔人の神民スキル『魔獣回帰』や魔人騎士の『騎士の盾』は発動しないのだ。
すなわち、自分たちの属するフィールド外で戦うということは、スキルが使えないということであり、実に不利な事なのである。
だからこそ、タカトは、ココ聖人国のフィールド内では、魔物は襲ってこないだろうと希望的観測を打ち上げたのだ。
「大丈夫とは言い切れん。およそ3年前には、なぜか魔人騎士ヨメル本人が魔物を率いて聖人国のフィールド内で輸送部隊を襲ったらしい。その輸送部隊には甚大な被害が出たとのことだ」
馬を進めながらヨークは言った。
「幸い俺らの騎士エメラルダ様が近くにいたため、多くの神民たちは助かったというが、一般国民の多くは亡くなってしまったらしい」
顔を見合わせるタカトとビン子。
今更ながら、門外のフィールドに入ったことを後悔し始めたようである。
だから、あれだけ権蔵が門をくぐるなと言ったのに。
このバカチンが!
「いいか。神民でないお前たちが人魔症にでもかかったら、その場で殺処分になるからな。気を付けろよ」
「……せめて、人魔収容所とか……」
「バカか! ここは戦場だぞ! よほど暇でもない限りいちいちそんなことに構ってられるか!」
タカトは、ビン子と顔を見合わせ、震えながらいう。
「きっと、大丈夫だって……ここは聖人国のフィールドなんだ。大丈夫……大丈夫だって……」
「だから、権蔵じいちゃんの言いつけを守らないからだよ……」
すでに涙ぐんでいるビン子ちゃん。
ヨークは、遠くに見え始めた四角い建物を指さした。
「あれが駐屯地だ」
ホッとするビン子はつぶやく。
「意外と小さいのね」
「まだ、距離があるからな」
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