第63話 第六の騎士の門(11)
今だ興奮がさめやらない子供たちが仮面ダレダ―と守備兵ごっこをしている広場の奥には神民街と一般街とを分ける城壁がそびえたっていた。
神民街と広場ををつなぐ城壁の入り口。
その入り口の陰にかれんな少女と屈強な男が身を潜め、タカトたちの様子を伺っていたのだ。
少女の名前は
そして、付き従う屈強な男の名はイサク。
しかし、そのイサクの様子は、あまりにも目を引いた。
イサクの体は、ボディービルでもしているかのようなたくましい胸筋をしており、腕には無数の傷痕があった。
しかし、その一方、背中には、傷がほとんど見当たらない。
それはまるで歴戦の勇者のようでもある。
まぁ確かに、ここまででも十分目を引くのであるが……
それ以上に目を引いたのが……
なぜか、イサクは紙袋を頭からすっぽり被っているである。
しかも、上半身裸にエプロン姿。
そう、紙袋が、裸エプロンなのである。
意味が分からない……
分からないよね……
もう、こっちの方がツョッカーの怪人なんかよりも断然、不審者である。
だから、誰も気味悪がってこんな変態に近寄ろうとしなかったのだ。
これに対して可憐な少女、真音子は、年のころ16歳ほど。
黒髪のボブでメガネ姿のいたって普通の女の子に見える。
いやただ隣に立つ男のインパクトが大きすぎて、普通に見えるだけなのかもしれない。
というのも、彼女もまた男同様に立派な胸を持っていたのだ。
いわゆる巨乳!
ビン子がみれば、すぐさま天敵認定をしてしまいそうなぐらいの立派な巨乳だったのである。
真音子の背後に立つイサクはつまらなさそうに声をかけた。
「お嬢、もう今日は引き上げませんか?」
「何をおっしゃっているのですか?」
お嬢と呼ばれた
イサクの声は少々大きくなり、両手をあれやこれやと動かしながら忠告しはじめた。
「毎日、毎日このようなことをして、他にやることがあるでしょう」
真音子は、またかとため息をつきながらもタカトから目を離さない。
「本日の業務は、すべてこなしました。あとは私の時間です」
「それは、そうなのですが……」
真音子は、そのようなイサクの存在にイラつきを隠せないようすだった。
「不満がおありなら、お帰りなさい! 私は一人で大丈夫です!」
「それでは、俺がアネサンに怒られてしまいますよ」
両手を勢いよく振り、その提案を拒絶する。
「では、何もおっしゃらずに、控えていなさい!」
はぁとため息をつくイサク。そばの壁に頬杖をついてもたれかかった。
「しかし、あの男の何がいいんですかね。器も小さい上に、肝も小さい。となると、当然、アレも小さいじゃないんですかねwww」
自分の冗談がよほどツボに入ったのだろうか、突然、爆笑しはじめるイサク。
真音子の背後で、イサクのかぶる紙袋がガサガサと音を立てながら大きく揺れていた。
そんなとき、真音子はイサクの方にスッと振り向いた。
そう、それは無音。
まるで、気配もなく空気が流れるかのようにである。
そして、そこからの!
「あん! なんじゃワレ! 言いたいことはそれだけか! イてこますぞ! コラ!」
あんなにやさしそうだった真音子の眉は吊り上がり、下から鋭く見上げる目尻は切れ上がっていた。
そこにはさきほどまでの淑女の姿はなく、レディースの総長ばりにガンを飛ばしている。
いや、ヤンキーと言うより極道と言った方が適当だろう。
その圧倒的なプレッシャーが、すぐさま紙袋をかぶるイサクに死を覚悟させた。
そんなイサクは電光石火の勢いで土下座する。
「も、申し訳ございませんでした! お嬢!」
この二人、実は借金取りなのである。
そして、いましがた一つ仕事を終えてきたところなのだ。
今からちょっと前の事である。
再び早戻し‼ ハイ、ストップ!
それはそう、タカトたちが土手の上で幼女たちの歌を聴いている頃。
そして、先ほどの戦闘員がステージショーの集合時間に遅れたことに気づいて慌てて家を飛び出した時刻である。
紙袋のイサクと可憐な真音子は、一つの粗末な家の中にいた。
真音子が腰かけている椅子の横にはイサクが仁王立ちしていた。
そして、その椅子の前には土下座をするドレス姿の女。
いや……オカマの男が一人。
そんなオカマの男に椅子に腰かけている真音子が優しい音色で声をかけた。
「ハゲ太さん、返済日は今日なのですが」
この土下座するオカマの男、いましがたオカマバーから帰ってきたばかりのイッポンハゲ太であった。
ハゲ太は、床に頭をこすりつけながら懇願していた。
「あと一日……あと一日だけ待ってください」
どうやら、ハゲ太はこの二人から借金の取り立てを受けているようである。
というのも、むさくるしいオッサンのいるオカマバー、当然、閑古鳥が鳴いて火の車なのである。
とてもハゲ子の学費を稼ぐどころではなかった。
それどころか、ハゲ太自身が食うモノすら事欠く状態になっていたのである。
そのため、本日の返済金額に少しどころか、全く足りて無かったようで、今、その責めを受けているのだ。
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