第74話 鑑定の神はおばあちゃん?(9)
「うぁ!!」
突然の声に驚いたタカトは、その場でドテンとしりもちをついた。
「あっ、お前はこの前のババァ!」
振り向き様にその声の主を見上げる。
そう、この老婆、以前、コンビニの前で血を吐いてぶっ倒れていた老婆であった。
しかもこのババア、「命の石がないと命に関わるんじゃ……」などと死にそうな声で言いやがったくせに、いざ命の石を受け取ったら感謝もそこそこに早々にいなくなった薄情な奴なのである。
「誰がババァじゃ!」
怒鳴り返す老婆が続ける。
「わしにはミズイと言う名がちゃんとあるわい!」
だが、タカトはあのコンビニ前で起きた事を思い出したようで、「ババアの名前なんてどうでもいいわい!」と、怒りが込み上げきていたようだった。
――だいたいコイツのせいで俺はじいちゃんに怒られたんだぞ!
うーん、なんか違うような気もするし、そのような気もするし……
ビン子もそれとなく老婆に声をかけた。
「おばあさん、もう体は大丈夫なんですか?」
だが、ビン子もまた、どうやらなにかが気に障っているようで、あえてミズイという名前で呼ばない。
だが、老婆はさほど気にする様子を見せなかった。
「ははは、お前たちにもらった命の石のおかげで、もう大丈夫じゃ」
「何が命の石だ! この盗人ババァ!」
けらけらと笑うミズイの態度に、タカトの怒りは収まらない。
一方、ヨークは老婆に気づいたかと思うと、とっさに馬を降り膝をつき頭を下げた。
あれれ……なんだか、タカトたちとあきらかに態度が違うんですけど……
いやいや、この世界ではヨークのとった態度の方が普通なのだ。
そう、神様はとってもえらい存在なのである。
神とは、摩訶不思議な神の恩恵を持ち、それを人々に授けることができるすごいお方なのだ!
だからこそ、権蔵もまた、その昔、小さきビン子に出会ったときは畏敬の念をもって丁寧に扱ったのである。
まぁ、今ではビン子が神であることを時々忘れている節があるが……いえ、けっして権蔵がぼけたというわけではないぞ。ビン子はもう家族なんだ家族!
しかし、タカトにとってビン子を日頃からイジくりたおしているせいなのか、それとも生まれつきなのか分からないが、神に対する畏敬の念など全く持ちあわせていなかった。もはや、目の前の老婆は金色の目を持てども、ただの一人のボケ老人! いや、盗人老人! そんな扱いなのである。
一方、ビン子の態度は仕方ない。
記憶がないとはいえどもビン子もまた、神なのだ。
すなわち、目の前の老婆と自分とは、全くの対等なわけである。
だから、ここであらたまって、かしこまる必要などありはしないのだ。
……などと、ビン子が思っているわけは全くなかった。
コイツもまた、タカト同様に神に対する畏敬の念など全く持っていないのである。
この二人、どんだけ上から目線やねん!
お前ら! 神様よりも偉いつもりなのかヨ!
この世界で神様よりも偉いっていったら、創造主であるアダムとエウアぐらいやで!
そんな二人に構うこともなくヨークは頭を下げたまま丁寧に挨拶を述べていた。
「これは神様ではございませんか。このようなところに顕現なされるとは」
そんな丁寧な態度、いや、普通の態度に気を良くしたミズイは、にこやかに手を振った。
「よいよい、楽にせい」
一方……相変わらず、神であることを信じていないタカト。
「ババァ、お前、本当に神なのか?」
「……お主、口の利き方が全くなっとらんの……」
フードの隙間から覗く金色の目が、不機嫌そうにタカトをにらんでいた。
今までミズイはこんな偉そうな奴は見たことが無かった。
しかし、人というのは薄情な生き物である。
神と分かっていれば仰々しくへりくだるのであるが、神と分からなければ、その見てくれからドブネズミのように扱うのだ。
だがしかし、目の前のタカトたちは違っていた。
神であることを隠していたミズイがボロ雑巾のように転がっていた時に手を差し伸べてくれたのは、まぎれもなくこの二人だけなのだ。
確かに神に対する礼儀はなくとも、人としての情愛は満ち溢れている。
そう思うミズイの目は、いつしかにこやかに変わっていた。
「まぁ、よいわ。神と気づいて態度を変えるより、かえってその方が気持ちがいいものじゃ」
……って、この目……また、何か企んでいるよね……絶対に……
ヨークが不思議そうに尋ねる。
「しかし、神様……このような場所に、いかなる御用が?」
「なに、体に生気が戻ったよってな、この小僧にこの前の礼をしようと思ってやって来たのじゃ」
「なんと、この少年に神の恩恵を授けられるのですか。よかったな少年」
それを聞くタカトの目がキラキラと輝いた。
「なんかくれるのか?」
何かくれる! もうその響きだけで素晴らしい!
早く! 早く! と言わんばかりにタカトの目がミズイを急かしていた。
突然、ミズイはタカトの前で大げさに両手を天に掲げた。
「鑑定の神ミズイの名において、お主に鑑定のスキルを授けよう!」
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