第125話 金貨をどう使うかは俺の自由だ!(18)

 タカトは、そんな二人の様子をポケットに片手を入れながらジイっとしながらジーイっと見ていた。

 ふう……

 ため息をつくタカト。

 なんだか、あの二人を見るとかつての自分を思い出してしまう。

 というのも、二人の服の裾はところどころほつれていた。

 その足に履く赤い靴は黒く汚れ、しかも破れた隙間から親指をのぞかせているのだ。

 だがそれでも二人の目は輝きを失っていなかった。

 一途に真っ直ぐ。

 なにか大切な物をひたすらに守るかのような強い輝きを放っていたのである。

 いうなれば、どんな逆境に置かれようとも屈することのない強い高潔な意思!

 ……そう、それこそSMシチュエーションにとっては、欠かせないエロチズム!

 ――……俺って……ティッシュ持ってなかったんだったっけ……

 思い出すタカトの手の平には、とびちったポリアクリル酸ナトリウムがべっとりと垂れついていたのだった。


 そんなポリアクリル酸ナトリウムをズボンの裾で拭きながらタカトは、権蔵に頼まれていた酒を探しはじめた。

 金はなくとも酒は要る!

 それが権蔵の口癖だった。

 酒が並べられた棚の上の段には高そうな酒がこれでもかというぐらい並んでいた。

 どれもこれも、おそらく大銀貨2枚約2万円ほどしそうな代物である。

 そんな酒の並びの真ん中に、なんか王様のような威厳を放つ一つの一升瓶が堂々と置かれていた。

 その金額なんと金貨2枚20万円である!

 こんな酒、洋酒以外にあるのかよ!

 あるんです!

 日本酒にもあるんです!

 精米歩合1% 純米大吟醸「光明」!

 そのお値段なんと720mlで20万円超!

 ちなみに一升は1,800mlですので、その半分以下の量でこのお値段!

 死ぬまでに一度は飲んでみてぇ!

 *注意* このコンビニで売っているお酒は上記で紹介しました銘柄とは全く関係ございません! あくまでも、作者の心の声であります……


「というか……だれが、こんな店で金貨2枚もする酒買うんだよ……」

 そう、こともあろうか、そんな高級そうな酒が無造作に棚に置かれているのだ。

 日本酒は冷暗所保存が基本!

 生酒や吟醸以上になれば冷蔵庫保存が絶対必須なのだ!

 だからこそ、下手な保存の仕方をすると悪酔いするのである。

 安い居酒屋に行って二日酔いするのは、この保存方法がちゃんとできていないからだと作者はいつも思っている。

 なので、まずはカウンター越しに酒の保存方法を確認して、冷で飲むのか、常温で飲むのか、熱かんにして飲むのかを決めるのだ。

 ぼろい酒は熱かんにしておかないと……マジで、次の日死にます!

 って、そんなことはどうでもいいんだよ!

 酒を見ながら苦笑いをするタカトであった。


 そんなタカトは気を取り直し足元近くの棚の下に置かれた安そうな酒を吟味しはじめた。

 ――じいちゃんが、好きなのは度数が高くて、辛口だったか……

 酒瓶の表面を順次たどっていたタカトの指が止まった。

 ラベルに『超辛口 酒人』と書かれた一本の一升瓶を持ち上げる。

 そして、おもむろに値段を確認すると。

「高っ! 却下!」

 そのお値段、なんと銀貨2枚大銅貨2枚! 2,200円!

 普通に安い部類いやろ……これ以上安いと……紙パックか安い焼酎に……

 仕方ない……

 仕方ないのだ……

 未成年のタカトは酒など飲んだことが無いのだから……

*注意part2* お酒は20歳になってから! 民法の成人年齢が変わったからって18歳じゃないからね!


 蘭華と蘭菊がこぼれたポリアクリル酸ナトリウムをモップで掃除していた頃、店の奥のカウンターでは買い物を終えた少々小太りの女性客がそんな二人を見ながら女店主に声をかけていた。

「あの子達のお母さんって確か寝たきりなんでしょ」

「3年ほど前だったかしら……第一の補給部隊で働いていた時、魔人騎士の襲撃で毒にあてられたのよ」

 ビックリマンチ●コをはじめ購入した商品を一つ一つ手に取り会計をしながら女店主は話を合わせる。

 しかし、おばちゃん達というものはどうしてこうも声が大きいのだろうか。

 おそらく個人情報やプライバシーという概念は井戸端会議には存在しないのだろう。そんな大声は否が応にもタカトの耳に入ってきた。


「もしかして、それからずっと病院暮らし?」

「そうなのよ。えっと全部で銀貨3枚大銅貨7枚3,700円ね」

「大変ね。病院代も馬鹿にならないでしょう」

 まるで女性客は他人事のように呟きながら、カウンター上にお金を並べていく。

 出し終わるのを待つ女店主はカウンターに肘をつきながら指で作った丸を小さく振って笑っていた。

「結構高いのよぉ、病院代!」

 それを聞く女性客はやっぱりと言わんばかりに少々驚いて目を丸くする。

 だが、いまだに入院できているということは、それなりにお金があるのだろう。

 お金を出し終わって銅貨5枚50円しか残っていない自分の財布を見ながら女性客は溜息をついた。

「はぁ、ご主人、いいところにお勤めなのね……それに比べてウチのクソ元旦那ときたら……もっと養育費よこさんかい!」

 この少々うらやましそうな顔をている女性客は、なんとギリー隊長の別れた元嫁。

 そんな元嫁にギリー隊長は毎月のお給料のほとんどを養育費としてせっせと渡しているのである。

 そのせいで、餅やコンニャクを食べて生活をする日々を送っているのだ。

 使ってないぞ! 食べてるんだぞ!

 だが、いくらギリー隊長が一般国民の身分だからといっても、第六の宿舎の守備隊長を任せられているのだ。

 いうなれば、これでも第三種試験に合格した国家公務員のようなもの!

 クソ旦那の訳がない!

 って……地方の下っ端国家公務員の給料って安いんだよね……

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