第72話 鑑定の神はおばあちゃん?(7)
超有名なアイドルアイナが何者かに襲撃されケガをおったというのである。
その証拠に、倒れこむアイナと逃げるベッツ背中の写真がデカデカと掲載されていた。
しかも、こともあろあろうかベッツ君……アイナ襲撃の真犯人としての顔写真までさらされていたのである。
「犯人はこのくそガキか!」
「見つけ次第ぶち殺す!」
「アイナの敵は俺の敵! いや全世界人類の敵!」
と言わんばかりに、当然ながら聖人世界のいたるところにいるアイナ親衛隊から目の敵にされることになってしまった。
もう、外を歩くだけで命の危険がつきまとう。
殺気をまとった目が町中のいたるところからベッツの一挙手一投足を監視する。
こんな状況だ、ベッツがちょっとでも顔を見せようものなら、すぐに誰かに見つかって、すぐにボコボコにされたのだった。
もはやベッツにとっては世界中が敵になったような感じすらする。
そんなベッツはキャベツの着ぐるみの中で震え続けるのだ。
――俺……童貞のまま死にたくないよ……
そしてこれ以降、ベッツは家にとじこもって出てこようとしなくなってしまった。
どうやらヤンキーからニートへと強制的にジョブチェンジをしたようである。
でも、こんな大事件に一人だけ歓喜の咆哮を上げている奴がおりました!
「ベッツローロ! アイナの雌ブタをちゃんとシメてきよったね! さすがおでん組のセンターや!」
そう、それはおでん組のプロデューサーであってベッツの祖母であるペンハーン!
アイナにステージで勝てないのなら、闇討ち万歳!
ってことで、新聞を片手に大喜び!
「これでアイナの時代は終わった! うちらの時代や! おでん組の時代や! おでん万歳!」
てことで、時間をまた今に戻そう。
ベッツが消えた通りには母犬と子犬が取り残されていた。
いまだに子犬は唸り声をあげている。
もしかしたら、今度は目の前のタカトを警戒しているのかもしれない。
子犬だからこそわかる、ほんのわずかな臭い……そう、男の子だったらなじみのある香りだ。
先ほどから、目の前のこいつの下半身からはタケノコをゆがいた時のようなあの独特なアルカリの香りが漂ってくるのだ。
おそらくタカトの固い志が、アイナちゃんのくい込み写真集を待ちきれずに夜の妄想をふくらませていたのだろう。
えっ? 違うものが膨らんでるって? 大丈夫だよ! ベッツに殴られそうになった時に、すでにシュンとしぼんで元気がなくなっているからwww って、不発かよ!
そんなタカトは荷馬車から飛び降りると、道に倒れる母犬に駆け寄った。
――元気がないな……
一応、念のために言っておくけど、犬の事だよ! 犬!
母犬は警戒し、タカトの敵意を確かめるかのようににおいをかぎだした。
だがすぐに何かを思い出したかのように甘えた声を出すとタカトの足へとすり寄りはじめたではないか。
その変わり様に先ほどまで警戒して唸り声をあげていた子犬が、キョトンとして首をかしげていた。
タカトはそっと母犬の頭をなでると、急いで荷馬車のところにまで戻ってきた。
そして、御者台に置いていた自分のカバンの中に手を突っ込んだのだ。
もしかして、いまさらティシュでも取り出そうというのだろうか?
いや、中からおもむろに一つの包みを取り出したのである。
その包みの中には、ビン子が作った弁当の箱が入っていたのだ。
弁当箱には巨大なパイの包み焼きが2個入っていた。
実はこのパイ、食材を買うお金がない迷コックのビン子が、森からの恵みをふんだんに使って前日までに作っておいたものなのである。
タンポポやらヨモギ、そして、ゴーヤなどを使って丁寧に下ごしらえしたものに、女性ホルモンであるエストロゲンと同様の効果を有する大豆イソフラボン、女性ホルモンの分泌を促進するための高たんぱく質としてイモリの黒焼き、トカゲのしっぽ、童貞の血などをふんだんに混ぜこんだうえに、ついに最後には……
「エロエロエッサイム~エロエロエッサイム~我は求め訴えたり~巨乳の女神よ~我に巨乳を与えたまえ~あぁ巨乳~あぁ巨乳~あぁ巨乳~とにかく1ミリでも大きくなりたまえ~」
と、悪魔でも召喚するかのような呪文をかけならが丹念にパイに包んで焼き上げた至高の一品。
その名も『思いでぽろぽろほろにがパイパイ』なのだ。
まあ……その名の通り、とてもほろ苦いのだ……
だって、これを食べても胸は1ミリも大きくなったためしが無い。
だが、悪魔召喚魔法の効果がないというわけではなさそうなのだ。
というのもこれを食べると、タカトが召喚する茶色いナマコが大きなトドに成長するのである。
「ヒッ! ヒッ! フ――! ヒッ! ヒッ! フ――! もう! 無理ィぃぃぃ! 俺の穴からスイカが生まれるぅぅぅぅ!」
きまって、朝のトイレからタカトの絶叫が響くのだ。
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