第138話 今日一日お疲れさん!(1)
「このドアホ‼」
家に帰ったタカトたちを待ち受けていたのは、やはり権蔵の怒鳴り声であった。
ランプの油も節約しているため道具屋の中はかなり薄暗い。
唯一の明かりが暖炉の炎。
そんな炎の揺らめきが暖炉の前に置かれた大きな机の影を伸び縮みさせていた。
その机を背にするように座る権蔵の目は、前に立つタカトとビン子を睨み付けている。
そう、今日もまたこのボケタカトは金貨を無くしてきたというのだ。
「あれほど言ったのに、お前は学習能力というものがないんか!」
「いやいや、爺ちゃん! 今度は違うんだって!」
「それなら今度は、ジジイでも血をはいたか!」
「ジジイではなくて、幼女が……」
「幼女が血を吐いたというのか! このドアホ‼」
「いや、そうじゃなくて。貸したというか、盗まれたと言いますか……その……あげちゃたのかななんて……」
「で! 酒は!」
「金が無いのに、あるわけないじゃん!」
「何をぬけぬけと……このドアホォォォォォ‼」
権蔵の持つ湯呑がドンとテーブルに叩きつけられるとともに、中に入っていた花の香りがする湯を飛び散らせた。
金貨は構わない……いや、構わないことはないが……酒がないのは我慢ならない。
というのも、芋を掘って発酵させるには時間がかかるのだ……
しかも、素人が作った酒は雑味が多い……ハッキリ言って飲めたものではなかった。
「まぁまぁ、じいちゃん。そんなに怒ると脳の血管切れちゃうよ」
さらに腹が立つのは、目の前のタカトには反省の色が全く見られないのだ。
しかもそれどころか、先ほどから腕を背中に回しながら右に左に体を揺らしてそわそわしている。
まるで、何かを我慢しているような……
「なんじゃ! タカト! ションベンか!」
せわしなく動くタカトにイライラを募らせる権蔵は、先ほどよりも声を大にした。
「別に……そういうわけじゃ……」
そう言うタカトであるが、その目は既にどこを見ているのか分からない。
権蔵には分かるのだ。
こういう時のタカトは何かを隠している。
そう、先ほどから背中に回している手で絶対に何かを隠しているはずなのだ。
「タカト! 何を隠しとんのじゃ! 見せてみい!」
「嫌だなぁ……じいちゃん……何も隠してないって!」
ならば……
「両手を前に出してみんか!」
⁉
――何だと!
一瞬、タカトは焦った。
だが、そんなことは想定内!
俺を誰だと思っている!
習慣チャンピオン名物! 名探偵タカト君だぞ!
じっちゃんの名に懸けて! この難題を解いてみせる!
タカト……頑張れば……世界が平和に!
なんかいろいろ混ざっとるが……
ということで、タカトはしばらくムズムズと腰を振ったかと思うと、ゆっくりと左手を前に突き出したのだ。
だが、権蔵の言葉は当然、「右手も出さんか!」である。
仕方なく右手も出すタカト。
権蔵の目の前で大きく二つの手の平を広げて、これでもかと言わんばかりに大声で叫ぶのだ。
「な! 何も隠してないだろう!」
しかし、そう言うタカトはなぜかガニ股前傾姿勢。
明らかに怪しい。
「なら、タカト! そこで飛んでみい!」
えっ?
――何を言いだすんだこのジジイ!
そんなこしたら、アイナちゃんの写真集が落ちてしまうだろうが!
あの瞬間に、なんとかズボンのウエストに挟んで隠したのだ。
だが、股上の隙間よりもアイナちゃんの写真集の方がはるかに大きい。
すなわち、少しでも油断すると写真集がウェストからこぼれ落ちてしまうのである。
だからこそ、今、ガニ股になることでケツの肉とズボンとで挟んで支えているのだ。
それなのに……ここで飛べと言うのか?
飛んだ瞬間にアイナちゃんがこぼれ落ちてしまうのは確実!
だが、先ほどからの権蔵の冷たい目を見ると、タカトには拒否するという選択肢は無いようだった。
仕方なしにタカトは両手を羽ばたかせた。
そして、突き出す顎で唇を尖らせるのだ。
ピヨピヨピヨ……
「このドアホ‼ だれが両手をバタバタさせて鳥マネをしろといったんじゃ! そこでジャンプしてみんか!」
仕方なしに少年はジャンプした……
「か~め~は~め~~~~~」
腰を低くしたタカトは両手を合わせるとおもむろに後ろに引いたのだ。
「……なんじゃ……それは?」
意味の分からないと言わんばかりの権蔵の反応。
「えっ? 爺ちゃん知らない? 少年○ジャンプの超有名なシーン! かめはめハァぁァァ!」
「知らんな……」
「そうか……じいちゃんはシェーは丹下、名はシャゼン! の時代か!」
って、シェーはイヤミや!
というか、ドラゴンボ○ルもたいがい古いぞwww
仕方ないだろ!
ガニ股でできるポーズなどカメハメハァぁァァ以外に思いつかなかったのだから……
だが、タカトはしてやったりのニヤリ顔。
見ろ! あの爺ちゃんのキョトンとした顔を!
すでに、ジャンプのことなど忘れているに違いない!
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