第139話 今日一日お疲れさん!(2)
そんな権蔵がボソボソっとした声を出した。
「タカト……じつわな……」
週刊実話に出てきそうな思わせぶりな話し方……
そんな権蔵の語り口にタカトの興味はガゼン沸いてきた。
――なんだよ! 爺ちゃん! 早く言えよ!
……
……
……
……
「お前の足元に銅貨一枚10円が落ちとるんじゃ……」
――何ですとぉぉぉ!
タカトは本能的に足元を見た!
――クソ! さっき拾った銅貨をまた落してしまったのか!
膝を折り四つん這いになって、あたりをきょろきょろと探しだす。
――あの一枚がなくなると……俺の全財産はまた銅貨四枚40円になってしまうではないか!
当たり前の事だが、そこは暗い部屋の中、いまいち床の様子がよく見えない。
――銅貨一枚 どうか! 見つかりますように!
焦るタカトは野良犬のように懸命に床に顔を近づけて探し回っていた。
「スマン! スマン! その丸いのは床板の節穴じゃった!」
椅子に座る権蔵は、あっけらかんとした声を出す。
この調子、明らかに最初からガセネタ。
四つん這いのタカトは恨めしそうに見上げた。
「はぁ? 節穴と銅貨を間違えるなんて爺ちゃんどうかしてるぞ!」
……って、爺ちゃん笑ってないんですけど……
そう、タカトの視線の先にはなぜか冷たい目をした権蔵がいたのだった。
「で……タカト……その床に転がっとるのはなんじゃ?」
タカトはゆっくりと背後に目をやった。
……
……
……
……
なんんとそこにはアイナちゃんの微笑みが床の上に横たわっているではありませんか!
――しまったぁぁぁぁぁぁ!
銅貨に気を取られている間に、背中に隠していたアイナちゃんの写真集が落っこちてしまってたぁぁぁぁ!
しどろもどろになるタカト。
「いやぁ……これは……その……」
なんとか誤魔化さなくては。
なんで?
アホか! 金貨を無くしているにもかかわらず写真集があるのはおかしいだろ!
しかも、酒を買ってないんだぞ。
こんな状況でアイナちゃんの写真集があるのがバレたら、絶対に写真集を金に換えて、それで酒を買って来いと言いだすのに決まっているのだ。
だが、それだけは嫌だ!
アイナちゃんの写真集を手放すのだけは絶対に嫌だ!
だいたいまだ、あの伝説の食い込み写真すら見てないんだぞ! コラ!
だが権蔵はそんなタカトの想いに反して、何か苦い思い出をしぼりだすかのように薄暗い中にかろうじて見えるアイナの姿を凝視する。
「それは……もしかして……アイナ……なのか……」
まぁ、職人気質の権蔵である。チャラいことには興味なし!
興味があるのは日々使う道具のコンマ数ミリの調整ばかりなのだ。
しかも、買い出しなどはタカトに押し付けているので、町を出歩くことも全くない。
そんな権蔵だからこそ、今までアイナの姿に触れる機会がほとんどなかったのである。
って……えっ? タカトの本棚にはアイナちゃんの写真集がいっぱいあるだろうって?
うーん、そこは男と男の超えちゃいけない一線ってやつよ!
年頃の男の子が隠し持つ本棚を男親が黙って見ちゃいけません!
親子といえども信頼関係が大切です!
って、タカトと権蔵は親子じゃないか! いや、親子です!
「爺ちゃん! しってるの! アイナちゃんの事!」
「ああ……」
「なんだ爺ちゃんも隅に置けないなぁ! いつからアイナちゃんのファンなのよ? この! このぉ!」
爺ちゃんもアイナちゃんのファンなら話が早い!
自称アイナちゃんファンクラブ補欠の補欠(要は金がないためファンクラブに入れないだけなのだが……)
ファンクラブの先輩として、アイナちゃんをお迎えする作法をいろいろと教えてくれようぞ!
まずは、写真集を前にして裸で正座!
それから三度礼拝! 床に頭をこすりつけるまで深くである。
厳かにしずかにゆっくりとポケットティッシュから3枚取り出して……あっ、4枚以上はもったいないから節約ね。ちなみに2枚だと薄すぎて貫通してしまうから3枚がギリギリベストなのよ! これこそまさにライフハック!
そしてそのティッシュをそっと膝上に乗せるのだ。
さぁ! アイナちゃんをお迎えする準備は整った!
爺ちゃん! 心行くまで食い込み写真を一緒に堪能しようではないか!
あっ! 見物料として銅貨1枚10円頂戴ね!
「ファンではないが……ちょっと昔に顔を見知っていてな……」
「昔って、またまたぁ! アイナちゃん、まだ16だよ!」
「アイナ……やはり生きておったか……」
って、アイナちゃんはベッツに襲撃されてケガをした……フリをしていただけですからね。
だから、今のアイナはピンピンしてます! 今のアイナはね……
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