第54話 第六の騎士の門(2)

 まぁ、大体、タカトが作るものは、決まってアホな道具なのである。

 だが、タカト本人はいたって超真面目。

 だからこそ、日々、融合加工の道具作りに真剣に向き合っている。

 そして、今回作った「スカートまくりま扇」なるものにも絶対なる自信があったのだ。


 飽きれるビン子を見てにやりと笑うタカト。

「これを見ても同じことが言えるかな」

 団扇の柄の部分にある突起物に自らの親指を強く押し当てた。

 指先からしみ出す一滴の血。

「開血解放ぉぉぉぉぉ!」

 ついに「スカートまくりま扇」の真の力が目を覚ます!


「さあ! 俺を神秘の世界へといざなえ!」

 タカトは女子生徒たちめがけてウチワを大きく振った。

 すると、なんとウチワから風が飛び出したではないか。


 えっ? 何あたり前のこと言ってんのだって?

 ふっ! 愚か者め!

 この風は、そんじょそこらのウチワであおがれたような貧弱な風ではない。

 じゃぁ。扇風機ぐらいとか?

 いやいや、もっともっと!

 なら巨大プロペラでどうだ?

 まだ足りない!


 たとえて言うなら、それはまるでジェットエンジンから噴き出されるような圧縮された空気の流れ。

 それが、極限にまで収束され、まるで二匹の竜のように絡まりうねるのだ。

 そんな風が、女子学生たちにめがけて真っすぐに飛んでいく。

 だが、強いだけの突風では女子学生たちを簡単に弾き飛ばしてしまいかねない。

 そう、最悪、吹き飛んだ女子学生が、背後の壁に打ち付けられてミンチ肉になってしまうのだ。

 それでは神秘の世界ではなくて、死人の世界になってしまう。

 ――そんなのは俺が求める世界ではないわぁぁぁ!


 ということで、女子学生を吹き飛ばさずに、そのスカートだけを吹き飛ばす!

 そんな難題を克服するためにタカトは日夜、計算に計算を重ねていたのだった。

 どうすればいいんだ!

 考えろ! 俺!

 必ず答えはそこにある!

 スカートの丈、材質、年齢、肌質、体重、体臭、性別などあらゆる条件を考慮に加えた。

 そして、今、その真価が発揮されるのである!


 大風は、女子生徒たちの前までくると、まるで龍が水の中に潜り込むかのように大きく沈み込んだ。

 そして、大きく地面を打つとそこから一気に天へと駆け上がる。

 だが、そんな竜の行き先を、女子生徒たちのスカートが邪魔をするのだ。

 天に昇らんとする二匹の龍は、スカートの中から抜け出そうと大いに暴れ始めた。


「きゃぁぁぁぁぁぁ!」

 何がおこったのか分からぬ女子生徒たちは悲鳴をあげた。

 突然舞い上がるスカート。

 その膨らむスカートを、上から必死に押さえこむ。

 だが、スカートの中の龍は収まらない。

 さらに激しく暴れるのだ。

 女子学生たちの驚く表情がみるみると羞恥を伴った赤へと変化していく。


 徐々に舞い上がるスカートの端。

 押さえられたスカートがついに逆三角形を描いた瞬間、黒きソックスと白い太ももがはっきりと見えた!

 エロい! このシチュエーション、かなりエロイ!

 でかした! タカト!

 さすがは童貞神! 我らが王!


 しかし、我らがタカト君、こんなことでは満足しなかった。


 ――俺が目指す目的地は神秘の丘陵地帯!

 太ももなんぞ、その童貞、いや違った道程に過ぎないのだ!

 毎朝、ベッドの転がっているビン子の太ももを見ているせいで、すでにそんなもの見飽きたわ!

「イケぇぇぇぇ! 双龍よ! そのまま天へと駆け昇れぇぇぇぇぇぇ!」


 だが、タカトの想いとは裏腹に逆三角形を描くスカートは、神秘の丘陵地帯を隠し通した。

 そう、スカートがそれ以上めくれなかったのだ。

 そのため、神秘の丘陵地帯は、その姿をちらりとどころか全く見せなかった。

 いや、端ぐらい見えたかもしれないが、本丸はダメだった……

 女子学生たちの必死の抵抗に、双龍たちが押し負けてしまったのである。


 クソっ!

 二匹でだめなら、三匹でどうだ!


 タカトは、先ほどよりも強く「スカートまくりま扇」を振りぬいた。


 今度は三匹の龍が、ウチワから飛び出した。

 そして先ほど同様に、スカートの中に潜り込むと大暴れをはじめた。


「ちょっと、これ、どうなってるのよぉぉぉおお!」

「誰かぁぁぁ! たすけてぇえぇぇ!」

 再び女子学生たちはスカートを必死で抑える。


 だが、今度は三匹。

 その力は、女子学生たちの抑える手をも跳ね飛ばす。

 そして、ついに三匹の龍は、スカートというしがらみを押しのけて、天へと昇りきったのである。


 それを見たタカトは、まるで勝利を宣言するかのように右手を高らかに突き上げた。

 俺の前に道はない

 俺の後ろに道は出來る

 ああ、股間よ

 乳よ

 俺を一人立ちにさせた巨大な乳よ

 俺から目を離さないで守る事をせよ

 常に乳の気迫を俺に充たせよ

 この尊い童貞のため

 この遠い童貞卒業のため

 今、タカトの研究の童貞が実を結んだ瞬間だった。

 って、それは童貞でなくて道程や!

 というか、そこは乳じゃないだろ! 父?

 違ーーう! 今はスカートの中身の話や!


 というのも、スカートをめくってエロくゆがんでいるはずのタカトの目が、いまや詩人、いや、死人のように遠くを見つめているだけだったのだ。

 そう、確かに神秘の丘陵地帯にたどりついたはずだった……

 だが、その丘の上からは、なぜかお祭り「わっしょい!」の香りが漂っていたのである。


「なんで……ふんどし?」

 なんと! 女子学生のたちのスカートの中にあるはずの下着が、皆、ふんどしになっているではないか!

 そこにいる女子学生たちはつい先ほどセレスティーノのふんどし姿に感動を覚えた子たちであった。

 そんな彼女らはセレスティーノの起こす新たなブームに乗り遅れまいと、さっそくふんどしを購入し着替えていたのである。


 しかし! 女子学生がふんどしなんてありえない!

 いや、あり得ないことはない……

 胸にさらしを巻いてふんどし姿。 確かにそそるものがある。

 だが、目のまえの女子学生たちは学生服にふんどしなのだ。

 それでは、なんか……まるでスカートの中だけオッサンになっているようじゃないか。

 めくった瞬間、こんにちは!

 今日も左曲がりのご挨拶ですか?

 いやいや私も左曲がりでして……

 もはや欲情とは違う、ほのぼのとした空気が流れてきそうである。


 ――スカートにふんどしなんてナンセンスだ!

 あれはきっと気のせいなのだろう。

 なら、もう一度! 確かめてみよう!

 ということで、再び「スカートまくりま扇」を構えた。


 ビシっ!

 ビン子のハリセンがタカトの後頭部をしばく。

「いい加減にしなさい!」

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