第135話 金貨をどう使うかは俺の自由だ!(28)
震える手で金貨二枚を見つめている蘭菊の手から、突然、その金貨が消えた。
そう、蘭菊の横で懸命に涙を止めようと必死に歯を食いしばっている蘭華が、その金貨を取り上げていたのだった。
「何様のつもりや! なんで私たちが変質者のアンタからお金を恵んでもらわんといかんのや!」
その剣幕に唖然とするタカト。
――なぬ⁉ このメスガキ! さっきまでのしおらしい態度はどこに行ったんだ!
まぁしかし、それは無理からぬこと。
いきなり見ず知らずの変質者からお金を渡されれば警戒するというものだ。
読者諸君たちだって親からちゃんと「見ず知らずの人からモノを貰ったらイケません!」と教えてもらったことだろ。
そんなもの不用心に受け取りでもしたら……
この後……この後……「お金を渡したんだからお兄さんのお家に一緒に行こうね」……などと小汚いワンルームに連れ込まれて、垢まみれの臭いお風呂の中であんな事やこんな事をされてしまうのだ……
鬼畜!
鬼畜すぎるわ!
「蘭菊! 気ぃつけや! この変質者! きっと私たちの足の裏をベロベロと舐めることに精を出す気なんや! そんなことされたら今度こそ間違いなく赤ちゃんができてしまうわ!」
お風呂場で足の裏をベロベロ舐めるって……どんな被害妄想ですか!
どうやらタカト君、変質者から妖怪あかなめにジョブチェンジした模様である♪
「蘭華ちゃん……舐めたぐらいでは赤ちゃんできないよ。赤ちゃんができるためには決まった場所に決まった時間に計画的に精を出さないとだめなのよ」
そう、妊活というものは意外と大変なのもなのだ。
計画的に赤ちゃんを作ろうと思ったら、その行為は作業へと変わるのである。
そこにエロはあるのか!
そこにエロスはあるのか!
下半身に全く感じることのない熱い浴場、もとい欲情!
身が焦がれそうなほどもだえる水浴、もとい愛欲!
男として俺は断固抗議する!
俺は熱い風呂が欲しいんだぁぁぁぁ!
(注意! ちなみに水浴って言っても水じゃないからね! だいたい38度~40度ぐらいのぬるま湯の事! 妊活にはリラックスして副交感神経を刺激することが重要なんだって! まぁ、作者にとっては水みたいなものなのよ……まったく……)
「ちょっと待てぇぇぇ!」
顔を真っ赤にしたタカトは、またもや二人の会話に強制的に割って入った。
って、なんでお前は、オッパイもまずに気をもむことに精を出しとんや!
こういう事は本人が興味を持った時に適切に教えるのが一番なのではないのだろうか。などと作者は思っていたりするのだが。
いやいや……まだ、早いだろ……
ということで、教育的指導!
タカトはパッと蘭華の手から二枚の金貨を取り上げた。
「そうだよな! 知らない人からモノを貰っちゃだめだよな! メスガキ! お前は偉い! 確かにエライ! えらすぎる!」
だが、褒められたはずの蘭華の目は涙目になりながらプルプル震えていた。
そして、タカトの手から金貨を再び取り返そうと手を伸ばしてきたのである。
「返してや!」
⁉
――させるか! メスガキ!
だが、タカトもまた反射的に金貨を持つ手を縮めた。
しかし、その手にはすでに何もなくなっていたのである。
そう、金貨はすでに蘭華によって奪還されていたのだ。
って、お前……幼女よりも反応速度が遅いじゃん!
ちょっとは体を鍛えろよ! 近く拳法を教えてくれる万命寺があるだろ!
フン! わざとだよ! わざと……ピエン。
そんな蘭華が涙をボロボロとこぼしながら叫ぶのだ。
「返えじたくない‼‼」
その様子はまるで〇ニエスロビーで泣き叫ぶニコ・□ビンのよう。
似てる! このシチュエーション、確かに似ている!
て、まったくもって似てないわい!
えー! だって、ここはコンビニエンスロビーで蘭華はワンピースを着ているし。
何? ニコ・□ビンはどこに行ったって?
えっ? この
すでに顔面が崩壊した蘭華は泣き叫ぶ。
「これは借りたことにずる‼‼ いや、ワタジが盗んだことにずる‼‼ 誰かに言いつけたければいえばいい‼‼ でも‼ でも‼ 蘭菊は関係ないがらね‼‼」
「はいはい……どうぞ、どうぞ、ご勝手にwww」
もうすでにタカトなどは、早く病院に行けと言わんばかりに白けた様子で手を払っていた。
ピンポ~ん! ピンポ~ん!
コンビニのドアがけたたましいチャイムを鳴らす先に蘭華の小さな体が駆けていた。
それを追いかけようとする蘭菊。
だが、そんな蘭菊はドアを開ける直前にタカト達の方へと振り返り、ペコリと深く頭を下げたのだった。
ピンポ~ん! ピンポ~ん!
それを見おくるタカトは肩を押さえて首をぐるぐると回していた。
――あぁ……肩こった……たしか万命寺のお札「万札」が肩こりにいいって言ってたっけ……
暗くなった帰り道、荷馬車の手綱を取りながらビン子は嬉しそうに語り掛けた。
「タカト。本当に金貨2枚ともあげてよかったの?」
「なんで?」
隣に座るタカトは腕を頭の後ろに回し御者台の背にもたれながら夜空を見上げていた。
「だって……あんなに極め匠印の頑固おやじシリーズの道具を買うって言ってたじゃない」
「道具ねぇ……だいたい金貨をどう使うかは俺の自由だしさ……」
「いやいや! あれタカトの金貨じゃないから!」
「へっ? そうだったっけ?」
「そうよ! 一枚は配達の代金だからね! また爺ちゃんに怒られるわよ!」
「やっぱり……怒られるかな……」
いまさらながら後悔したかタカト君。
そんなタカトにビン子が追い打ちをかけた。
「当然じゃない! 材料を仕入れるお金、また、借金しないといけないんだから……」
「どこかにお金、落ちてないかな……」
タカトは頭を起こすとわざとらしく辺りをきょろきょろ見回した。
「落ちてません!」
って、こんなところにお金が落ちてるわけないだろうが!
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