第96話 第一駐屯地(11)
「最近噂の赤の魔装騎兵か……」
それを聞いたジャックには、どうやらなにか気になったようである。
といういのも、腰に手を当て何か考えるかのように空を見上げてつぶやくのだ。
「たしか、その女……アルダイン様の……いや……直属の人魔管理局の局長だったよな」
モンガはモンガで、妖艶な赤の魔装騎兵の姿を思い出したようで、
「しかし、あれは、かなりイイ女ですね……ぐひひ」
だらしなく緩む口から垂れ落ちるよだれを拭いていた。
それを見たジャックは、あわててモンガの口をふさいだのだ。
「馬鹿者!」
そのあまりの剣幕にビックリしているようすのモンガ。
そんなモンガに小声で耳打ちするのである。
「あのな! あのお方はアルダイン様のこれだぞこれ! めったなことを言うな!」
周りの様子を気にするかのようなジャックはモンガの眉間に、立てた小指をゴリゴリと押し付けていた。
その小指の先に黒目を寄せるモンガは、ようやくかなりヤバイ状況だと理解したようで、とっさにジャックから離れるとコメツキバッタの如く何度も何度も頭を下げはじめたのだ。
「申し訳ございません! 申し訳ございません! このことはアルダイン様にはご内密に!」
飽きれたジャックは、腰に手を当てバカにしたように言う。
「バカか! そんなことをアルダイン様に報告してみろ、俺までとばっちりを食ってしまうわ!」
そう、アルダインはジャックよりも、かなりやばい奴なのだ。
もう、そこからあたふたと手を振りながらその場を丸く収めようとするモンガは、それはもう滑稽であった。
「い・い・いや、いい女というのは半魔女のメルアの事でして!」
モンガの額からは大量のあぶら汗がしみだしていた。
油で揚げたガンモだけにwww
「そうそう! あの半魔女がベッツを森に誘い出したんですよ!」
どうやらモンガは赤き魔装騎兵から話をそらそうと懸命のようす。
しかし、メルアがベッツをそそのかしたとは、よく言えたものだ。
「もう、あの女のせいでベッツは、死にそうな目に合って……うぅぅぅ」
わざとらしく目をこする。
ジャックは、そんなモンガにあきれた目を向けていた。
「お前の息子……半魔女にそそのかされたのか~。救いようがないアホだな~!」
――ヨシ! ジャックの旦那が食いついた!
えっ? これって食いついたっていうの?
いいんだよ! 愛人の件から話がそれれば、それでいいの!
ということで、モンガはここぞとばかりに話を一気に盛り上げた。
「いや、あのメルアと言うのが、見た目はいいんですが、これまた性悪女の尻軽女でして!」
「何が尻軽女だよ。半魔の女の尻に乗ろうとしたお前の息子の方だろうが! アホか? 犬か? お前の息子はワンちゃんか?」
「いえいえ……息子はただただ無理やり……半魔女に……」
たしかに息子のベッツがアホなのは間違いない……それは、モンガも認めるところなのだが、あの半魔女がいなければベッツもまたアホな行動を起こさなかったのである。
要は、あの半魔女のメルアが悪い!
うん! 悪い!
だが、私情でメルアをシメたりしたら、まわりの女郎たちがうるさいのだ。
特に妖怪オババのような年増女郎のお登勢がね……
今まで何度、トリプルルッツルツルと称してワキと下の毛を抜かれたことだろうか……
頭の毛よりも強かったはずの毛根たちは、すでにお登勢の巧みなテクニックによって精根全て搾り取られて疲れ切り……もはや……しっかりと立たせることができなくなっていたのだ……えっ、分かっていると思うけど、毛の話だよ。毛の!
そんな天敵お登勢のことである、メルアを懲らしめたりなどしたら「
ベッツの首どころか、自分の息子のカリ、いや首まで落とされかねない。
うっ! うらやましぃ……
って、アホか! そんな妖怪はアンタッチャブル! 即! チェンジ!
ならば……
「しかも、あの半魔女、森の中に呼び寄せた魔物にベッツを餌としてあたえようとしてたんですよ! 魔物ですよ! 魔物!」
「なに! その女、魔物を呼ぶというのか! だったらなぜ! すぐに守備隊に報告しない! もしかして、お前も魔物の一味と言うわけではあるまいな!」
あれ? ちょっと雲行きが怪しいな……
これはイカン……
「たぶん……たぶんなんですよ……」
ちょっと、方向を修正しないと……
「証拠もないですし……その半魔女が呼んだのかもしれないなぁって……でも……どうにも……私は怖くて……怖くて……」
そんなモンガをジャックは明らかに疑うような目で見ていた。
――嘘だな……
だいたい、半魔が魔物を呼ぶという話は聞いたことがないのだ。
そんな話があるのなら、半魔の生き物を軍事用に転用などできるわけがないのだ。
だが、魔物がいたというモンガの話もあながち間違いではないのだろう……
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