第56話 第六の騎士の門(4)

 ギリー隊長は、さきほどから声が出せないタカトにウチワを返すと、力強く肩を叩いた。

「よし! 今度、俺の使えなくなった写真集を持って来てやる!」

 慌てて証拠であるウチワをカバンの中に隠したタカトの耳がピクンと動いた。

「え? ワじゃなくてエ? でもそれって……アイナチャンの写真集だよね?」

 念のために聞き直した。

 でも……聞き直したのは、どちらの質問のことだろう?


「しかも、この前、出たばかりの最新号の『ラブレター』!」

 にやりと笑うギリー隊長。

「もしかして、あの話題になったハイレグくい込みの写真が一枚入っているという……ごくり」

 それに飛びつくタカトは生唾をごくりと呑み込んだ。


「おお! そうとも! 極端に肌の露出を嫌がるアイナちゃんのハイレグくい込み写真だぞ!」

 もう、「わ」だろうが「え」だろうが「用済み」だろうがなんでもいい!

「見たい! 見た見たい! い! 見たい! 見たい! 見たい! 見たい! 今すぐ見た―――――――――――――――――――――い!」

「アイコラなんかより実物の方がいいだろ? まぁ、ちょっと引っ付いて見れないページがあるけど気にするな!」

「いいです! いいです! そんな事、全然気にしません! ぜひ、その写真集、この哀れなタカトめにお恵みくださいませぇ~」


 そんなタカトをビン子がしらけた目で見ていた。

 ――よく言うわ~

 大体、お前の本棚はアイナチャンの写真集で埋め尽くされているだろうが!

 今回のウチワも、アイナチャンの写真集を切るのがもったいなくて、ムフフな本の広告欄を切り抜いただけ!

 そんなお前の心の中は、すでにマルッと完璧にお見通しなのだ!


 アホか! この貧乳娘!

 今回のは最新号の写真集「ラブレター」は特別なんだぞ!

 過去の写真集とは確実に一線を画しているんだよ!

 今まで写真集にも確かに水着の写真はあった! だが、それは、健康的で明るい写真。

 それが今回のものは、男を誘うような色香漂うものなんだ!

 俺には分かる! これは明らかに、どこぞの男の目を意識した作品!

 まさしく、その男に対しておくる「ラブレター」そのものに感じられるんだ!

 そんなメッセージ性を色濃く出した写真集は、「売れてるマン・しゅう一・本すじランキング」で5か月たった今でも一位を維持しているんだぞ!

 あまりの反響の大きさに、コンビニでは未成年が立ち読みできないようにビニールまでかぶせられた一モツだ

 ……だから、俺、もう立ち読みできないんだよ……せっかく、ポケットに手を入れたまま立ち読みできるように四本の義手を用意した道具『マからまへと大手ネットサイトのロゴのように矢印が付いた! 生死せいしをかけろ! あっ!シュ(ま)(マ)ン』を開発中だったのに……クソ!

 だれだ!

 誰なんだよ!

 アイナちゃんが意識する男って!

 クソォォォぉ! 超うらやましいぞぉぉぉ!

 などと言う、タカトの心の声が聞こえてきそうである。


「ところで、タカト、同じことを聞くが不審者を見なかったか?」

 脳内がアイナチャンのハイレグ写真集の事で一杯のタカトは、手をコネコネしながら卑屈に笑う。

 そう、今、タカトの脳内ではスパコン腐岳が起動していたのだ。

 ハイレグ写真集……いうなれば、それはこのミッションのクリアー最上位の報酬!

 このミッションを、完全にノーミスでクリアーしないと手に入らないアイテムなのだ。

 ふっ! ならば、クリアーしてみせよう! この状況を!

 どーんと来い!


 ということで、脳内スパコン腐岳が座禅を組んだ。

 一休さんのようにアイデアを絞り出しているようだった。


 ポク……ポク……ポク……ポク……ポク……

 ……なんでページが引っ付いて見れないんだ……


 ポク……ポク……ポク……ポク……ポク……

 そうか!

 そうか! 

 全て(解け)かけた!


 チーン!このお~ シールかヨ!


 ということで、何か納得したタカト君は、守備隊長ギリーの疑いの目を他にそらしにかかった。

「ギリーの旦那、よく考えてくださいよ。そもそも、10枚ものスカートを同時にめくることができる奴なんていると思うんですかい?」


 そのタカトの言葉に、なんとなく納得をするギリー隊長。

「うむ、確かにそうだな……その昔、第七駐屯地にいたという伝説のダブルオーライザーの『マッシュ』でさえも、めくれるスカートは2枚までだったというしな……」

 何やねんダブルオーライザーって!

 そもそもマッシュは、ガンダム乗りではなく、ドム乗りだろうが!

 って、まぁいいや。これはかなり先のお話しだから今は忘れてくださいな。


「で・でしょう! 旦那! なら、それはきっとタツマキかなんかじゃないですかい?」

 馬鹿だ……こいつ……タツマキって、自分からゲロってどうするんだよww

 えっ? 何言ってんの?

 この状況でタツマキって言ったら、〇ンパンマンに出てくる念写すらもできてしまいそうなあのエスパータツマキの事でしょ!

 って、どんな状況やねん!


「タツマキか……だが、魔物の線も残っているかもしれないな……」

「嫌だな、これだけ大勢の人がいるんですよ。魔物だったら、もっと大騒ぎしてますぜ!」

「確かに……そうだな……」

「でしょう」

「ところで、お前、荷物を運んできたんじゃないのか?」

「あっ今、納めるところですよ」

「なら、さっさと行って来いよ」

「旦那……写真集忘れないで下さいよ……」

「しつこいな……お前……」


「タカト……早く、どこに運んだらいいのか聞いて来てよ」

 ビン子があきれてものを言う。


「了解!」

 タカトはルンルンとウサギのようにスキップを踏みながら宿舎の入り口に入っていった。

 これにて、ミッション完全クリアー!

 S級アイテム、アイナチャンのハイレグ写真集GETだぜ!

 って、まだ貰ってなかったんだった~

 ウンウン、ちょと気が早かったね。俺ってば♪

 さあ! 頑張ってお仕事ぉ~お仕事ぉ~


 第六の騎士の門の上を小鳥がゆっくり飛んでいく。

 それを見ながら大きく深呼吸をするビン子。

 タカトのいなくなった広場では静かな時間がゆったりと流れだしていた。


 そんな落ち着いた中、ふとビン子は昔の事を思い出してしまった。

 そうそれは、こんな穏やかな晴れた日の事だった……

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