第108話 金貨をどう使うかは俺の自由だ!(1)

 飯も食い終わりひと段落した頃、モンガたちの隊列が広場の真ん中に並び出した。

 どうやら、駐屯地内の横流し品を積み終わって内地へと戻るらしい。

 それを見たタカトたちも慌てて荷馬車を回す。

 そして、その隊列の最後尾にちょこんと並んだのである。

 

 ヨークを先頭にしたモンガたちの隊列は第一の駐屯地を離れ内地へとつながる騎士の門へと荷馬車を進める。

 その最後尾でタカトは、目の前のモンガの荷馬車に積まれたカマキガルのむくろを忌々しそうに睨み付けてブツブツとつぶやいていた。

 どうやら今だにカマキガルの素材に未練があるようなのだ。

 ――あれは元々俺のモノだ!

 まだ、まぶしい太陽がタカトのシャツから水気を奪っていくとともに、その体温をも上げていく。

 荷馬車が揺れるたびに、タカトの貧乏ゆすりはヒートアップしていった。

 もう、何もかもが許せない。

 全ての事が鼻につく!

 許せない……許せない……許せない……

「オイオイ……ビン子! 内地までこんなに遠かったか? 道に迷ってるんじゃないのか? 聞いて来いよ!」

 そのイライラは御者台の横にならぶビン子へと向けられた。

 だが、ビン子はそんなタカトを気にすることもなく遠くを見つめていた。

 そんなビン子の黒髪を荒野の乾いた風が揺らしていく。

 そっと髪に手を当て目を閉じる。

 ビン子の奏でる歌が風に乗り、疲れ果てたモンガたちの奴隷たちの心を癒していった。

 そして、その歌は横に座るタカトの心の熱も少しずつ冷ましていくのだ。

 ――気持ちい……

 先ほどまであんなに激しく揺れていた貧乏ゆすりも、いつしかすっかりと収まっていた。

 そんなビン子の歌に引き寄せられるかのように、第一の騎士の門が静かにタカトたちに近づいてきた。


 タカトたちの前で第一の騎士の門が静かに開いていく。

 荒野の平原の中に突如、見慣れた融合国の城壁が門一杯に現れた。


 それを見た、ビン子はほっと一息をつく。

 ――やっと戻ってこれた……

 隊列が次々と門をくぐっていく。

 タカトたちもまた門をくぐる。

 そんな二人に、門の脇に立つ守備兵たちが声をかけた。

「おい! お前たち! これで検査しろ!」

 そして、人魔検査キットを御者台の上へと投げ渡すのだ。

 タカトは、またかと思いながらも、しぶしぶチェックをし始めた。


 そんな時である。

 タカトの目の前の第一の宿舎の入り口から守備兵が一人の男?を連れ出してきたのだ。

 というのも、男らしきものは全身をプロテクターで身を固め、さらにはフルフェイスのヘルメットまでかぶっていたのである。

 どうやらその背格好からして男のようであるのだが、その体形が隠されているため確実に性別を知ることができないのだ。

 守備兵はそのヘルメットをかぶった男を入り口まで連れ出すと、一気に外に押し出した。

「仮面ダレダ―! 釈放だ!」

 そう、このヘルメットをかぶっている男は、第六の門前広場で女子高生のスカートをめくった現行犯で逮捕された仮面ダレダ―だったのだ。

 その後、ダレダ―はスカートをめくりの調書を取られるため第六から第一に移送されていたのであった。

「さぁ、とっと帰れ! 俺たちは忙しいんだ!」

 守備兵は無造作に押し出したダレダ―の姿を手で払った。

 そして、仮面ダレダ―に背を向けると、ぶつぶつと言いながら宿舎の中へもどっていくのだ。

「しかし、アイツ、保釈金の金貨5枚50万円なんかよく持っていたよな。仮面ダレダ―ってマジで儲かるのか? 俺も転職しようかな……給料安いもんな……ココ」


 そんな守備兵に向かって深々と頭を下げる仮面ダレダ―。

 意外と礼儀正しい奴なのかもしれない。まぁ、正義の味方だしね。多分。

 だが、それと時を同じくして、宿舎の裏にある勝手口からは仮面をつけた二人組が忍び足で外に抜け出していた。

 一人は蝶の仮面をつけた少女。

 そして、もう一人は紙袋をかぶった屈強な裸エプロンの男であった。って、紙袋は仮面になるのか? なるんです! だって、紙袋に『鉄仮面』って書いてあるんですから!


 時を少し戻そう。

 タカトたちが第一の門をくぐって今まさに外のフィールドへと出ようとしていた時の事である。

 城壁の脇にある大きな木の陰で二つの影がゴソゴソと動いていたのだ。

 それはタカトを追いかけようとする少女と、それを懸命に止める紙袋をかぶった裸エプロンの男であった。

 そう、真音子とイサクである。

「放さんかい! ボケ! タカト様が門外のフィールドに出てしまうやろが!」

「だから、お嬢! ここは第一の騎士の門! アルダインの支配下ですぜ!」

「やかましい! もし門外のフィールドでタカト様に何かあったらどないするんや!」

 怒鳴っていたかと思うと、真音子は急に顔を押さえてうつむいた。

「なんかあったら……私は……私は……生きていけへん……タカト様ァァァァ!」

 そして、大きな声をあげながらワンワンと泣きだしたではないか。

 忙しいやっちゃな……

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