第13話 タカトの心(3)

「よー! 熱いね! タカト君!」

「超弱いくせにイキるなよ!」

「臭いぞ! オタク!」

 少年たちは、わざとタカトを挑発する。


「なんかウ○コみたいなにおいがするよ! あっウ○コか! キャアハッハハ」

「臭い! 臭い! ねぇ、その服、洗ってる?」

 少女たちは、わざとらしく鼻をつまみ、匂いを嫌うかのように手を振っている。


 しかし、こんなことは日常茶飯事。

 タカトは全く気にする様子をみせない。


「ベッツ! 放せって言ってるだろ! ビン子に手を出すな!」

 そんなタカトはさらに語気を強くしてベッツを睨み付けていた。


「オイオイ、コイツ何、熱くなってんだよ! 弱小オタクが!」

 ベッツはビン子の腕を離すと、今度はタカトの胸倉をつかみあげる。


「弱いくせに生意気言ってんじゃねえぞ! コラァ!」

 と、勢いよくそのままタカトをつき押した。

 よろけるタカト。


 しかし、タカトは倒れない。

 いつもなら、尻もちをついて子犬のようにおびえる視線をベッツに向けるのだ。

 ベッツにはそれが、面白くてたまらない。

 だが、それがどうだ……

 今日に限って、タカトが倒れないのだ。


 ――なんか面白くない。

 ベッツの顔がそういっているようにも見えた。


 だが、タカトは倒れないまでもフラフラとよろけ、全く足が定まっていない様子。

 そんなタカトにベッツが歩み寄る。

 そして、ベッツの拳がタカトの腹部に突き上げるように入った。


 ぐはっ

 腹を押さえたタカトが、うずくまるように倒れ込んでいく。

 だがしかし、タカトの右足が自然と前に出てその体を支えるのだ。


 ――コイツ……コレでも倒れないのかよ……


 いつしかタカトが鋭い視線でベッツを睨みあげていた。

 いつもはおびえるような視線を向けるタカトがである。

 さすがに、これにはベッツも怯んだ。

 ――なんだよコイツ……ちょっと……おかしいんじゃないか……


 そんな時である。

 コンビニの入り口から女の声が飛び出してきたのだ。

「こらぁぁぁぁ! アンタたち! さっきから店の前で何やってんだい!」

 この女は、タカトたちが食料をいつも買っているコンビニの女店長さんである。


「今日はこのぐらいにしておいてやるよ!」

 その声に驚いたベッツは、急いできびすを返した。

「やべぇ! にげろ! オニババだ!」

 そんなベッツを追うように少年少女たちもまた、笑いながら道の向こう側へと駆けていく。


 いまだフラフラと足がふらつくタカト君。

 そんなタカトに、ビン子がいそいで駆け寄った。


「タカト、大丈夫?」

「アホか! これが大丈夫に見えるのかよ? 痛えに決まってるだろうが!」

「だって、今日は地べたに転がってないから……」

「ふん! 今日はコレがあったからな!」

「コレって、何?」


 ビン子が見つめる先には、タカトが作った融合加工の道具が握られていた。

 だが、よく見ても、今一よく分からない。

 ――なんでバニーガールのフィギュアなの?

 腹立つことにその巨乳の谷間を強調するかのようなエロいポーズで立っているのだ。

 しかも、その右手にはお決まりの銀色のトレイではなく、銀色のコマが勢いよく回転しているではないか!

 ――なんでやねん!


「聞いて驚け! コレは『スカートのぞきマッスル君』だ! どんな無理な体勢からも、コケることなくスカートの中を覗くことができる姿勢制御しせいせいぎょのすぐれもの!」


「また、アホなもの作ってからに……」

 そんな、ビン子が顔を手で押さえた。

 それはマッスル君ではなくてバニーガールだろうが!

 もしかして、これが俗にいう男のというものなのだろうか……

 なら、この巨乳はニセ乳!

 ――心配して損した!


 だが、マッスル君を持つタカトの表情が少々かたい。

「……本来、俺の道具はケンカに使うものじゃないんだ。俺の道具は、みんなに夢を与えるもの……そう、みんなを笑顔にするために……」

 ――それが母さんの最後の願いなのだから……


「ごめんなさい……私のせいで……」

 いつしか手で覆ったビン子の瞳には涙がたまっていた。

 ――いつも私のせいでタカトが傷ついていく……

 覆った手の間から涙が自然とこぼれ出していた。

 もう隠せない……

 堰を切ったように、ビン子の瞳から涙があふれ出していく。

 ――もしかして……私が貧乏神だから……

 ……私の力がタカトを不幸にしているの?


「なんでビン子のせいなんだよ! だいたい最近、俺、芋食いすぎてたからな……あいつらの横ですかしっ屁こいてやったぜ! ざまぁみろ!」

 Vブイサインを突き出し、タカトは大笑いしている。


「バカ!」

 涙を蓄えたビン子の目が笑っていた。

 ――心配して損した……もう……大丈夫……もう……

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