第129話 金貨をどう使うかは俺の自由だ!(22)
ならば、臨時収入の金貨一枚はどうだろうか。
今まさにタカトの脳内のスパコン腐岳が、その臨時収入である金貨一枚分の使い道の再計算をし始めているところだったのだ。
金貨1枚10万円-銅貨1枚10円=大銀貨9枚 銀貨9枚 大銅貨9枚 銅貨9枚(9万9千9百9十円)
これにピタリとあう極め匠印の頑固おやじシリーズの組み合わせは何がある!
むずい!
むずかしい!
金貨1枚という区切りのいい数字なら簡単に計算できたのだが、 端数がある計算になると途端に難しくなってくる。
おいおい! 俺ってマジ、計算の天才! だったんじゃないのかよwww
だって、世の中には消費税ってのがあるじゃん……
07214545通りの計算を終えたタカトの脳からは、すでにガマンしたときに出てくるような脳汁が滲み出ていた。
あと少しでイケそうなのに、なぜかイケないといった苦悶の表情。
ちなみに、いわんでもわかってると思うが、これは計算の事だぞ!
そんな指先に挟まれた金貨がタカトのノーズフロントで小刻みにバイブし続けていた。(byジャンボポール・ゴルチン
その様子を見ていた女店主のケイシ―が、さも早くしてと言わんばかりに腰に手を当てて首をかしげていた。
こいつは先ほどから鼻先につまんだ金貨二枚をにらみつけながら何をしようとしているのだろうか?
訳が分からない……
――エスパーのまね事?
いやっ!
もしかして!
今からエスパーの念力でこの金貨をグニャリと曲げるから、どうか……銅貨一枚分をまけてくれ!などと言うつもりなのだろうか⁉
それなら……
それなら……
――曲げる前にその金貨で支払って!
不意にタカトの背後から同じぐらいの年恰好をした男が声をかけてきた。
「おい! お前! それ買わないなら俺が買うからよこせよ!」
肩越しにのぞき込むその横顔から手が伸びる。
そんな手を嫌うかのようにタカトはカウンターに置いたハンカチをサッとよけた。
「いやいや、これ、俺が買うから!」
背後を振り向くタカトの顔面は今や鼻水と涙で完全に崩壊していた。
そんなに嫌なのか……臨時収入の金貨を使ってビン子のためにハンカチを買うことが。
見ろ! それを見ているビン子の顔が引きつっているではないか。
――こいつ……小せぇ!
たかが銅貨1枚!
されど銅貨1枚……
その銅貨1枚10円を使うことは、タカトにとって世界滅亡と同義なほど重要な問題であったのだ。
それほどまでに極め匠印の頑固おやじシリーズとは凄いモノなのだろうか。
だがしかし、当然のことながら一般ピーボーのビン子には、その違いがさっぱりと分からない。
――いったい安い道具と何が違うのよ!
確かに道具作りの職人さんであれば、大銅貨1枚100円均一で売っている道具と明らかに違うことは一目でわかる代物なのである。
だからこそ、道具作りのプロである権蔵もまた当然に使っていたのである。
大銅貨1枚100円均一の道具を。
「道具にこだわる奴はまだまだじゃ!」
そんな権蔵によって使いまわされる道具たちは、何の訓練もされずに実戦配備された新兵そのもの。
過酷な権蔵の仕打ちには当然耐えられる訳はなかった。
だ・か・ら!
「安いのはすぐに壊れるんだよ!」
そう、タカト曰く、じいちゃんは金がないから大銅貨1枚100円均一の道具しか買えなかったらしい。
だが、タカトは知らない。
そんな権蔵の使う道具も、日々コンマミリ単位で調整され続け、弱い部分は権蔵の手によって魔改造されていることを。
そう、それは既に100均の道具にして100均の道具にあらず!
例えていうならば、その前身は打たれ弱い新兵なれど、過酷な訓練と魔改造された装備によっていかなる環境をも耐え抜くレンジャーのようになっていたのだ。
まさに極め権蔵印の頑固おやじシリーズ!
だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
ここでビン子の口をふさいでおかなければ、家に帰って権蔵に大銅貨1枚100円均一の道具でシバかれかねないのだ。
いくら大銅貨1枚100円均一の道具といっても、その硬度はタカトの頭よりはるかに硬い。
そんなもので殴られでもしたら、あっという間に妖精さんたちがいる花畑にタカトの心は昇天してしまうことだろう。
――それだけは避けなければ……それだけは……
慌てたタカトは手に持っていた金貨2枚をドンとカウンターに叩きつけた。
「はい……ありがとね……」
もう待ちくたびれましたと言わんばかりのケイシ―が面倒くさそうに一枚の金貨に手を伸ばした。
そして、その金貨をつかもうとした瞬間。
金貨が消えた。
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