第123話 金貨をどう使うかは俺の自由だ!(16)

 真剣な面持ちのビン子が食料品の棚の前でなにやら悩んでいた。

 ――モヤシにしようかしら……それとも、おからにしようかしら……

 そう、ここはコンビニである。

 いつしかタカトが死にかけのババアである鑑定の神ミズイを助けるために命の石を買いに走ったのがこのお店。

 そんなコンビニの中でビン子はその食料品に貼られた値札を見ながら長い間悩んでいたようだったのだ。

 ――あっ! そう言えばお塩も切れてたんだっけ……

 道具を納品した際のお金をタカトがいつも無くしてくるため、食事に必須の塩でさえも長らく購入することができずに切れた状態だったのである。

 えっ? 今までどうしていたのかだって?

 そんなの決まっているじゃないですか!

 道具作りの名人の権蔵とタカトがいるんですよ。

 ミネラルたっぷりの岩肌を削って水に浸し、それを蒸発させて塩を取っていたのだ。

 だが、それを何日も繰り返しても採れるお塩は小さじ一杯がいいところ……

 ――やっとお塩が買える……でも……エビフライも食べたい……せめて一本だけでも……

 込み上げてくるよだれをグッと飲みこむビン子は自分に強く言い聞かせるのだ。

 ――……ウチにはそんな贅沢をする余裕もないし……ガマンよ! ガマン!

 そう、何度も言うが権蔵の家は超貧乏なのである。

 今回の納品代金も道具を作るための材料仕入の支払いまで考えると食料品購入に使えるのはごくわずか。

 だからこそビン子は日々節約に節約を重ねて頑張っているのだ。

 ――アイツ……私がこんなに苦労しているのを知っているのかしら!

 だが、あのタカト君は臨時ボーナスの金貨一枚を全部自分の道具を買うために使ってしまうというのである。

 いまさらながら、ビン子には殺意が湧いてきた。

 そんなビン子の肩がワナワナと震えだす。

 感情が高ぶる指先がブルブルと小刻みに震えて止まらない。

 ――きゃぁ♥ 捨てられているキャベツの外側の葉っぱが一杯あるわ♥ 今日はなんていい日なのかしら♥

 ゴミ箱の中のキャベツの葉っぱを見たとたん、ビン子の頭の中からはタカトの存在など完全に消え去ってしまったようである。

 

 そんなビン子の肩越しにタカトが声をかけてきた。

「何かいいものあったか?」

 今まさにキャベツの葉っぱに手を伸ばそうとしていたビン子は驚いた。

「キャベツの葉っぱがこんなにたくさん! って、タカト⁉ ほんとにもう、どこに行ってたのよ!」

「悪い悪い。ちょっとな」

 そういうタカトは店の中をぐるりと見渡した。

 ――確かここはコンビニのはずだよな……

 そう、ここに来るたびにタカトはいつも思わされる。ここは一体なんの店なんだろうと……

 棚には食料品をはじめ、酒、調味料、歯ブラシなど日用品が数多くとり揃えられていた。

 まぁ、ここまでは当然だろう。

 そんな商品に続き陳列されたモノは男性服や女性服へと変わり、ついには子供服にまでも及んでいた。

 なんだか地方のちょっとしたスーパーのような雰囲気になってきたぞ。

 だが、その売り物の服は人間のものだけにとらわれない。

 これは犬猫の服だろうか。

 こっちはヘビの服?

 あっちはエリマキトカゲの襟巻?

 ついには、酒に酔ってすぐに暴れ出すフーぞくテンの寅さんの替え用虎柄トランクスに、ジャンボポール・ゴルチン13サーティーンさん考案のニュー赤ちゃん用ハグ袋など……なんか並べらている品ぞろえがどんどんと怪しくなっていくような気がする。

 そして、とうとうその衣装は怪獣やナース、メイド服などのコスプレ衣装へと変わっていた。

 そんなコスプレ衣装の先には「18歳未満は立ち入り禁止」と書かれたカーテンで目隠しされた一角まであったのだ。

 そのカーテンの隙間からのぞく壁には大小さまざまな道具がライフルショップのように並べられていた。

 危ない……

 危なすぎるぞ、このお店……

 おそらくこれは獲物をウつための道具に違いない。

 きっと、こちらは捕獲した獲物を縛るものなのだろう。

 そして、これは一人用の発射道具なのかもしれない。

 こっ! これは! もしかして二人用なのか!

 そして、部屋の真ん中には12人同時プレイができる発射道具が堂々と置かれていたのだ。

 それはちょうどラブホテルにあるよな回転ベッドほどの大きさで、その円盤状の周りには12個の発射道具がまるで歯車のようにつけられていた。

 もう、かつての深夜番組にでてくるような、ちょっとした小道具ぐらいの存在感があった。

 そんな円盤の中心にはまるでステージに立つかのように赤い蝋燭に照らし出されたマネキンが立っているのだ。

 このマネキンはもしかしてホテルニューヨークに鎮座されていたエウア像と同じものなのだろうか。

 確かにその顔かたちは同じものに見えないこともないが、どうも少し雰囲気が違うような気がするのだ。

 というのも、その像にはほとんど布地がないきわどい金色のティバックパンツとブラが身につけられていたのである。

 仮にこれが創造神である女神エウアであるならば、この行為がなんと罰あたりであるかは言わずもかなである……

 ちなみにそのティバックパンツとブラともに布地の部分には男性のパンツのような前開きが備え付けられていたのだ。

 だが、日本のおばちゃんたちの丁寧な仕事ぶりを彷彿とさせるこの縫製技術。

 きっとこれは女神さまクラスの超高級なパンツとブラに間違いない!

 そう、この店にはライフルなどの道具はないが、大人のおもちゃの道具が所狭しと置かれていたのである。

 だが、今一度ハッキリと言っておこう! ここはあくまでもコンビニエンスストアであると。

「いったいどこに向かう気なんだよ……この店は……」

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