第一章 2 げっ、このオッサンの口から『愛』とか聞くと、なんか発狂したくなる。
……が、死を覚悟したその瞬間、いきなり体が浮いた。
正確には
「まあまあってとこだな」
よく知った男性の声。
目を開けると、わたしは肩に
一体全体どのように脱したのか、知らぬ間に紅衣貌達の包囲網の外まで来ていた。
ひとまず安全な距離を保てた位置で、わたしは地面にポイと落とされた。
もろに尻を打つ。痛い。もっと
決して怪しい者ではない。わたしの相棒、ルーサー・
こんな夜になぜサングラスを掛けているのかは後ほど説明する。
正確には、ベルウッドさんはまだ仮の相棒である。わたしには本来の相棒がいるのだ。もっと常識的で品があって
「まあまあって何です? 今までどこにいたんですか?」
わたしは痛む尻を
「なぁに、ちょっと木に登って、高みの見物をしていただけだ」
ベルウッドさんは悪びれる
もちろんこの剣、先程わたしが紅衣貌に弾かれた剣である。
つまり、わたしがピンチに
何たる早業か。戦闘における実力だけなら、わたしの本来の相棒にも引けを取らない。
だが、この性格は受け入れ難い。
「高みの見物ぅ? こっちはもう少しで死ぬところだったのに、どういう神経してるんです? 第一、『見物』って、
「だから、ちゃんと助けてやっただろ。俺はひよっこのお前さんを
げっ、このオッサンの口から『愛』とか聞くと、なんか発狂したくなる。
「それにな、お前さんのへなちょこ立ち回り、
―――そう。
わたしの仮の相棒、ベルウッドさんは全く目が見えない。つまり全盲なのだ。
子供の頃、父親に殴られたことが原因とのことだが、本人
まあ、なぜか服のボタンは毎回必ず掛け違えてるけど……。
輝きのない灰色の瞳を隠すため、外出時は昼夜を問わずサングラスを掛けているのである。
「心を鬼にとか愛とか言った後に、ニヤニヤしながら、大いに楽しませてもらった、ですか? このドSオヤジ」
「いいからさっさと立て。来るぞ」
ベルウッドさんは迫り来る紅衣貌達を顎でしゃくり指し、話題を強引に切り替えた。
まさか、まだ戦わせるつもりなんかい?
「誰かさんのせいで、もうへとへとなんですけど?」
「おい紗希、弱音を吐くな」
ベルウッドさんはしゃがんでわたしと目の高さを合わせると、わたしの頬に軽く手を添える。
「立たないと、キスするぞ」
「立ちます立ちます!」
わたしは
セクハラ
まあ、キスよりもっと恐ろしい仕打ちもあるが、それは後ほど機会があったら話すことにしておく。
「いい子だ。やればできるだろ」
ベルウッドさんは
バリバリバリ、と雷が空を
ベルウッドさんの手から青緑色の発光棒が生えた。
いわゆる
精神エネルギーである練識功を空気中で
それを、このオッサンはセクハラ脅迫発言の直後にやってのけたのだから、その切り替えの
わたしのレベルでは、一、二秒程度、細長い形を発生させるだけで精一杯である。
そんな
つまり返り血を浴びない。ズルい!
立ち上がったはいいが、剣を握る手に力が入らず、
ダッシュ、できるだろうか?
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