第一章 10 是非会わせたい人がいるんだ。

 いけない。いろいろ考え事をしていたら、また夢の中へ行きかけてしまった。

 

 たぶん、寝息としていたわたしの息遣いをさっしたのだろう。


 まったく、この人の聴覚と勘の鋭さには恐れ入ってしまう。

 

 「二度寝するな。もうめしができるぞ。起きないならこうしてやる」

 

 言うなり、ベルウッドさんはわたしをソファに押し倒し、躊躇ちゅうちょなく顔を近付けてきた。

 

 ゑッ⁉ いくら起きないからって、こんなお仕置しおきは非道ひどうではないか!

 

 「わあああ! ごめんなさい! 起きます! 起きますからあああ!」

 

 両手両足をバタつかせて全力で抵抗ていこうするが、のがれられない。

 

 ベルウッドさんはほほと顎をわたしの顔にこすり付けてきた。

 

 「オラオラオラァ! 必殺ジョリジョリ攻撃だ! 毎朝毎朝手こずらせやがって、たまには一発で起きてみやがれ!」

 

 「ひいいい! 許してください! ごめんなさあああい!」

 

 元々ひげが濃いせいか、髭剃ひげそり前のベルウッドさんの顔面は凶器だ。まるで下ろし金である。

 

 早く髭を剃れという催促さいそくねているのだろう。

 

 向かいのソファのガン助が目覚め、頭をもたげてこちらを見遣みやり、首をかしげている。

 

 「どーだ! 目が覚めたか⁉」

 

 「覚めました覚めました!」

 

 「駄目押だめおしにいジョリジョリだあ! 喰らええええ!」

 

 「もういいですってばああああ!」

 

 絶叫ぜっきょうするわたし。

 

 この体勢たいせいはたから見れば誰もが確実に誤解する。このオッサン、花も恥じらう乙女の上に乗るとは、なんて破廉恥はれんちな行為をしてくれるのだ?

 

 ガン助がキョトンとしていた。相手が犬でもやはり見られるのは抵抗がある。

 

 時間にしたらほんの二、三分だったが、わたしにとっては永遠とも感じられる地獄時間だった。

 

 「……で、今日はひまか?」

 

 気が済んだベルウッドさんはジョリジョリ攻撃をやめ、まだ馬乗りのままわたしの両肩を押さえながらたずねてきた。

 

 「特に予定はないです。休みの日ぐらいゆっくり寝かせてください」

 

 わたしは顔のヒリヒリに涙しながら、ぐったりして答える。

 寝起きの気怠けだるさも手伝い、朝からへとへとになってしまった。きっと、強姦と同じぐらいの熱量はあっただろう。

 

 いや、経験はないけど。

 

 「せっかく休みが合ったんだ。今日は俺に付き合え」

 

 「リアル鬼ごっこならおことわりします」

 

 「そうじゃない」

 

 ベルウッドさんは急に真面目な表情になる。

 

 「是非ぜひ会わせたい人がいるんだ」

 

 真剣に言われたが、上に乗られた状態ではじつが感じられなかった。

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