第五章 13 これはこれは……。
少しずつ後ずさり、側に転がっている物が改めて目に留まった。
鉄パイプだ。
「恐れることはありません。私が
ナヒトは
わたしはこれ以上後退しなかった。ナヒトをギリギリまで引き付けるために。
チャンスは一瞬。
わたしは黙ったまま両手を軽く上げた。
「いい子ですね。やっと理解していただけましたか」
ナヒトが二歩手前まで
今だ!
わたしは
手応えは……ない。鉄パイプの先は空を
すんでのところで、ナヒトに飛び退かれてしまったのだ。
自信皆無だったが、この
「
無視。
わたしは鉄パイプをビュンビュンと8の字に振り回し、ナヒトに飛びかかった。
ナヒトは逆手に持った両手のナイフで
わたしは
長引けばわたしの体力が尽きる。今のわたしには練識功による肉体の
ナヒトも練識功で肉体強化を
鉄パイプとナイフが
勝つ必要はない。逃げられれば良い。火の手が広がってきており、このままでは焼け死ぬか一酸化炭素中毒で死ぬか、危険な状況なのだから。
「
ナヒトが
この兄ちゃん、やっぱり手加減をしていた。
そんなことより、この炎に囲まれそうな状況に危機感を抱いてはいないのだろうか?
わたしはナヒトから間合いを取り、鉄パイプを投げ付けた。
次いで、足元にあった木箱をナヒト目掛けて蹴飛ばすと、壁を二、三歩伝い駆けてナヒトを避け、階段に向かって全力疾走した。
筋力強化だけならほんの少し練識功を
突然、わたしは背中に衝撃と激痛を覚え、勢い良く転倒した。
ゴロロンと、角材が階段に落ちる。
この兄ちゃん、角材をわたしの背中に思い切り投げ付けたのだ。
痛いよぉ……。階段に顔面打ったし……。
「できれば、あなたに手荒なことはしたくなかったのです。悪く思わないでください。いずれ、私にこのことを感謝するようになります」
未来
「とりあえず研究室へお連れします。少しの間眠っていただき、怪我の手当てと
嫌だあああ!
「ガキンチョ相手にお医者さんごっこか? この変態野郎」
本気で泣きそうになった時、
煙が
「これはこれは……なぜここが分かったのです?」
ナヒトが詰問した。その声からは、先程までの余裕が消えている。
わたしも同じ質問をしたいほどだった。しかも、ナヒトの背後から来たとなると、あの
「紗希、そこにいるな? 大丈夫か?」
ベルウッドさんはナヒトの質問を無視し、わたしに問い掛けた。
「は……はい……」
わたしは軽く咳き込みながら答えた。
何だか涙が出そう。こんなピンチの時、
「後を付けてきたわけではないでしょう?」
「お前に気付かれないように、離れて付けてきたんだよ」
「その割には遅い登場ですねぇ。実はかなり迷われたのでは?」
「ああ、離れ過ぎて途中で見失ったからな。子供の泣き声が聞こえて、あのエレベーターを見つけたんだよ。もしかして人質にしていた子供か?」
ションタクだ。良かった。無事に外に出られたのだ。きっと今頃は局長に怪我も治してもらえていることだろう。
「さぁて……大切な相棒を可愛がってくれたお礼、たっぷりさせてもらうぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます