第四章 17 やけに赤いな。毒々しいほどに。

 それから、局長とベルウッドさんが場所チェンジし、わたし達はベルウッドさんに先導される形で進んだ。


 もうわたしの案内は必要ない。ベルウッドさんのケダモノセンサーがあるのだから。


 ベルウッドさんが途中でまた立ち止まる。


 わたしはベルウッドさんとノエル先輩に挟まれた。さらにその後ろから局長も当たる。


 あーもう! 何度も何度も! 痛い!


 「いきなり止まらないでください。どうしたんです?」


 さすがに大声は出せず、仕方なく小声で抗議こうぎする。


 「あーいや……足音を見失……聞き失った。遠くなったんだと思う。奴ら、走ってるのかな。ずいぶん速いような……。どうする、局長?」


 「追跡を続けて。この通路を行けば追い付けるだろうから」


 「了解」


 わたし達は再び歩き出す。


 時間的な感覚が鈍っていたが、それから三十分近くは歩いただろう。


 行く手にぼんやりと灯りが見えた。


 その小さな電球に照らし出されていたのは、『第一研究室』と書かれた手書きのプレート。右向きの矢印まで認められる。


 「ルーサー、ストップ」


 局長が呼び止めた。


 そっか。ベルウッドさんは見えないから、この案内板の存在に気付かなかったのだ。


 「右へ行って。研究室があるみたい」


 「ん? ああ、分かった」


 ベルウッドさんは進行方向を少し気にしながらも、戻って右の通路へ入った。


 分かれ道はなく、かなり曲がりくねったせまゆるやかな下り通路がしばらく続き、黙々と歩く。数メートル置きに小さな電球があり、先程までの真っ暗空間よりは歩きやすかった。


 とにかく歩いて歩いて歩いて……。


 ああもう! 激長にもほどがある! あの円筒形空間の螺旋らせん階段と同じぐらい歩いている。あくまでわたしの感覚なので、ちょっと大袈裟おおげさかもしれないけど。


 一体全体、研究室なんてどこにあるんだっつーの?


 信者達だって、この果てしなく広い洞窟どうくつ内の移動にはうんざりするのではなかろうか。移動だけで時間と体力を浪費していては用が足りないだろうに。


 「あれ? 行き止まりか?」


 わたしがひそかに不貞腐ふてくされ始めた時、やや広い空間に行き着き、ベルウッドさんが立ち止まった。


 ……いや、突き当りの壁に何かがある。大人が立って十人程度は入れそうな金網の箱型ケージが一つ。その左側には何もなかったが、やはりケージと同様の幅と奥行きで、上方まで岩がきれいにくり抜かれていた。


 それらの横の岩壁には大きな銀色の丸い金属が設置されている。


 「これ、エレベーターじゃないですか?」


 と、ノエル先輩。


 エレベーターって……東河岸しのかしでもぼう大手デパートで一台しか見たことがないのに、まさかこんな秘境の地下世界で、しかも敵のアジト内に二台もあるなんて……。


 先進的な組織だなぁ、アポカリプスって。思想の良し悪しは別として。


 けれども、このエレベーターには階数表示盤がない。デパートにあったものは針で階数を示していたのに。


 局長はエレベーターの扉をふすまのように開け、中を調べた。


 「ボタンが一つしかないところを見ると、行き先は決まっているようね」


 エレベーター内にも、やはり大きな銀色の丸い金属が一つ。なるほど、ボタンだったのか。押せば自動的に決まった行き先へ昇降しょうこうする仕組みなのだろう。


 突然、上からギャラギャラギャラ、と音が聞こえてきた。


 全員に緊張が走る。


 上のエレベーターがこちらに下りてきているのだ。


 信者だろうか? 先程ベルウッドさんが足音を聞き失ったと言っていたが、もしかしてエレベーターに乗って違う階へ行ったから? 

 

 「丁度いい。来たらそく確保ね」

 

 局長が一歩前に進み出た。

 

 エレベーターの動く耳障りな音が次第に大きくなり、やがてケージが見えてきた。

 

 ん? あれ? 

 

 なんか……乗ってきた人達、やけに赤いな。毒々しいほどに。

 

 ……って、違う。人ではない。彼らは、いや、これらは間違いなく紛れもなく紅衣貌ウェンナック


 

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