今さらのプロローグ 12 やめろって言ってるの!

 打ち合う二人の間近で立ち止まった局長は、十秒程度様子をうかがった後に突然踏み出して、なんと二人の片手を掴んでひねり上げた。

 

 そのまま二人とものけるように転倒。

 

 想定外の横槍に集中力がたれたため、両者の手から練識功アストラルフォースの剣が消滅した。


 「やめろって言ってるの!」

 

 局長の怒号が演習室内に大反響する。

 

 ノエル先輩もわたしも唖然あぜん

 

 もっとも、一番びっくりしているのは軍曹とベルウッドさんだろう。

 

 練識功の剣で全力剣戟けんげきをのべひらく二人の間に、素手を突っ込む局長も究極のツワモノだが。

 

 『スミマセン……』


 仰向あおむけのままの軍曹とベルウッドさんが弱々しく謝った。


 


 それから、全員で談話室サロンへと戻った。


 「あの……局長、さっきどうやってその……素手で戦闘を止めたんですか?」


 ノエル先輩が局長にたずねた。

 

 「ああいう場合、武器じゃなくて手の動きを注意して見ればいいの。でも、慣れるまでは真似しないで」

 

 言われなくても、良い子は絶対に真似しません。

 

 「さて、ルーサー。適性検査の結果、あなたは合格よ。あなたに異存がなければ、今からアンブローズの一員になってもらうわ」

 

 「んん、まあ……異存はない」

 

 ベルウッドさんはなぜか複雑な表情で答えた。


  ……って、当初の予定ではビシッとことわるつもりだったはずじゃ……?

 

 もしハッキリ断れないなら、適性検査でわざと手を抜いて不合格になればいいものを、やはり局長が女性とあって、つい格好をつけて本気を出してしまったということなのかな? 筋金入りの助平オヤジである。

 

 あにはからんや、後々になって、理由がただの下心だけではなかったことが判明するのだが、この時のわたしにはそこまで知るよしもなかった。


 それにしても、先程からガン助がしきりに軍曹の方に鼻を向けてクンクンさせているのが気になる。

 

 「初対面で、こんなに好かれるのは嬉しいな」


 軍曹がガン助の頭を撫でると、ガン助はその手に鼻をり寄せクゥンと鳴いた。


 「軍曹、あんた……」


 ベルウッドさんはそこで一拍いっぱく置いた後、


 「……あんたとは、また全力でり合いたい」


 「まあ、そのうちな」


 「その時は練習用の剣を使いなさいよ!」


 軍曹がおどけ半分に応じると、局長から特大の釘がぶっ刺された。


 ごもっとも。また止める方も大変なのだから。


 「分かってるよ、局長。そんなに怒らなくても。じゃあ早速、カメラを持ってくる」


 軍曹はそそくさと資材倉庫へ行った。


 「今、カメラって言ったのか? 何をするんだ?」


 ベルウッドさんが不思議そうに訊ねる。


 「記念撮影よ。メンバーが増えるたびに集合写真を撮ってるの。軍曹の趣味みたいなものね」


 局長は答え、壁に飾られている四枚の集合写真をしみじみとながめた。


 一番古いのは局長と軍曹の二人だけが写っている白黒写真。二人とも、特に局長が初々ういういしい。


 次が二人と、それに屈強くっきょうそうな男性数名が共に並ぶ、やはり白黒写真。悲しいかな、この男性達は全員紅衣貌ウェンナックとの戦いで命を落としてしまったとのこと。

 

 次はカラー写真。二人とまだ幼いノエル先輩の三人。ノエル先輩、なんてカワイイんだろう! 


 そしてその三人にわたしも加わったカラー写真が、今までの中では最新版。


 「局長、一応言っておくが、俺の本業は整体師だ。毎日朝から晩までってわけにはない。当面、バイトってことでいいか?」


 そう言えばこの人、整体院を開業してたんだっけ。さっきの軍曹との激闘を目の当たりにしてしまったので、すっかり忘れていた。


 「問題ないわ。それと、これは軍曹からの希望でもあるんだけど……」


 局長はそこでわたしの顔を見る。


 「あなたには紗希と組んでもらうわ」


 「へっ⁉」

 

 予告なしの通達に、わたしは驚愕の声を発してしまった。

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