今さらのプロローグ 13 わたしの方はかなり抵抗あるんですけど……?

 「軍曹も年齢的に体がキツいみたいなの。今後は指導係として働きたいってことだから」

 

 「局長命令及び軍曹のお望みならいたし方ない」

 

 ベルウッドさんは抵抗なく受け入れた。


 いや、ちょっと待てい。わたしの方はかなり抵抗あるんですけど……?


 「でも局長、わたし、せっかく軍曹と息が合ってきたところですし、今から相棒を変えるのは何て言うか……」


 「お子ちゃまの子守に疲れたんだろ。さっしてやれ」

 

 ベルウッドさんはわたしの頭をクシャクシャとでる。


 ああ、ムカつく。


 「紗希ちゃん、いいと思うよ。ベルウッドさんとはもう息がぴったり合ってるようだし」


 ノエル先輩、血迷ったことを言わないで。


 「の、ノエル先輩、違います。わたし、この人にいじめられてるんです。襲われそうにもなりましたし」


 「苛められてるぅ? すねを蹴られて、豪華夕食ゴージャスディナーを喰われて、寝床を盗られて、今朝は起き抜けに一発顔面パンチ。それでも俺は健気けなげに朝食を準備してやった。苛められてるのは俺の方だ。それに、こんなションベン臭いガキ、誰が襲うか。あと百年もすれば襲ってやってもいいけどな」


 「それを聞いて安心しました。一人でシャツのボタンも満足にできない人に襲われたくないですし。今こうして小綺麗こぎれいにスーツを着こなせているのはどなた様のお陰ですかねぇ? 散髪してひげらなかったら、とても見られたお姿じゃあなかったですよね~」


 「それはいい考えね」


 唐突に局長がパンと手を合わせる。


 「紗希、あなた、今日からルーサーの家に住めばいいわ」


 「局長、いきなりそんな恐ろしいこと言わないでください」


 わたしにはノエル先輩がいるのだ。オフィスに直行するために、昨夜は仕方なく一泊したが、こんなふしだらオヤジと一つ屋根の下でずっと暮らすなんてとんでもない。


 「ねえ紗希、わたし以前から思ってたのよ。いくら何でも、女の子を一人でこのオフィスに寝泊まりさせるのは危険だなって。ほら、この界隈かいわい、夜は特に変な連中も多いでしょ。ルーサーの家に住んだ方が、わたしとしても安心なの。ルーサー、あなたも目が見えないと何かと不便だろうし、誰かいた方がいいんじゃない?」


 「ガキンチョの子守をしろってか?」


 「オッサンの介護ですか?」


 「ま、屋根裏部屋を片付ければ、お子ちゃま一人が寝られるぐらいの部屋にはできる。ちゃんと家賃払えよ」


 「そっちこそ、今後女遊びは外でしてください」


 売り言葉に買い言葉。


 だが、局長は見抜いている。ベルウッドさんは助平だが善人だと。


 さもなくば、一緒に住む提案などするはずはないのだから。


 どこか適当な場所にアパートを借りることも考えたが、如何いかんせん家賃が高い。もちろんわたしの出身地である首都東河岸しのかし自治区ほどではないが、安い場所となるとやはりこのオフィスのように治安の悪い所しかないのだ。


 いやはや、こんなことなら、家出する時にもっと実家から貴重品を持ち出すべきだった。


 何はともあれ、こうしてベルウッドさんはアンブローズの一員となった。


 軍曹がわたしの相棒から身を引いた本当の理由は、後ほど知ることとなる。




 恒例こうれいの記念撮影後、軍曹とベルウッドさんからノエル先輩と共にしこたま戦闘指導を受け、オフィスを出た時はもう夕焼けがおがめる頃となっていた。


 死ぬほどハードだった。ベルウッドさんとの立ち合いにしても、軍曹が年齢的におとろえているとは思えないのだが。


 「ところでベルウッドさん、ガン助がいなくても大丈夫なんじゃないですか? 軍曹とあれだけ互角に戦えるなら、普通に歩くのなんて訳無いでしょう?」


 オフィスを出て少し歩いてから、わたしは素朴そぼくな疑問を投げかけた。

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