第二章 4 やっぱり気持ち悪い。
それより、白菜が
「こちらの可愛いお嬢さんは?」
「……は、初めまして。同僚の鞍馬紗希です」
「わたしはベサニー・ノックス。この
女性はにっこりと
「え? 牧師先生……ですか?」
正直、耳を
「
「ママの手料理久しぶりだな。あ、そうだ。ママの好きな
ベルウッドさんの声はいつもより甘ったるかった。やっぱり気持ち悪い。
「まあ、ありがとう。わたしの大好物よ」
「僕はママの作るアップルパイの方が好きだけど」
まるで恋人に接すように体を寄せている。わたしのファザコンなんて
時々わたしにも必要以上に接近してくることがあるが、局長や軍曹が言うには、相手の姿が見えない分、無意識のうちに人一倍スキンシップを求めてしまうのだろう、とのこと。息遣いや匂い、体温などで、表情や顔色を見るように、相手の機嫌や体調を読み
それがコミュニケーションの方法なら、
ただ、わたしは決してファザコンではないということをここで明言しておきたい。
白菜とごぼうと
いくら寒さが厳しいとは言え、まさか昼間から鍋を食べられるとは思わなかった。しかも、こんな地方の山の温泉郷で、外国人ふたりと。猪肉を食べるのさえ初めてなのだ。
駅から歩いてきて気付いたのだが、この町に来てから
街場ではいろいろな人種を日常的に見かけるが、やはり少し
「大根とネギも入れようかしら。ちょっと
「いいよママ、寒いから僕が行く」
言うなり、ベルウッドさんは勝手口を出て、裏の畑へと行った。
ベサニー牧師は慣れた手付きで猪肉をスライスしている。
味付けはシンプルに
「あの子も、ああやって身だしなみをきちんとすると、父親にそっくりね」
「ベルウッドさんのお父さんのこと、ご存知なんですか?」
「あの子とここで暮らすようになって……そうねえ、一年ぐらい経ってからかしら。父親と名乗る人が
ベサニー牧師は肉を切る手を止め、遠い目をする。
「必死に調べてこの場所を突き止めたんだと思うけど、
失明の原因は、わたしも以前ベルウッドさんから聞いたことがある。八歳の時に父親に
わたしのパパは殴らない分マシなのかな。
「ベサニー牧師と一緒にいる時のベルウッドさん、凄く幸せそうですしね」
「……ところで紗希、あなた、あの子の同僚って言ったけど、あなたも整体師?」
「え?」
わたしはベサニー牧師の質問の意図を理解するまでの数秒間、皮剥きの手を止めた。
あ、なるほど。ベサニー牧師の中では、息子は
「あら? 同僚とは違うのかしら? あの子が女性連れで帰ってくるから、もしかしてとは思ったけど、やっぱりそうだったのね。あの子にも素敵な
ベサニー牧師は満足そうに述べ、また肉を切り始めた。
そう言えば、ベルウッドさんが言ってた『会わせたい人』って、まさかベサニー牧師?
なんか今朝の起こし方もちょっと強引だったし……。
自分の育ての親に会わせるなんて、一体どういうつもりなのだろう? いや待て待て。だったらその前に、ベルウッドさん本人から何か一言あっても良さそうなものである。
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