第五章 21 一発入魂、全力集中。

 原体に近付いては遠ざかり、それでもあきらめず一歩一歩進み続け、ようやく辿たどり着いた。


 「あれです! あの太い触手の先です!」


 両手で剣を振っていたので、指し示すこともできず。


 いずれにしろ、極太ごくぶと触手なんてあちこちに何十本もある。目印が付いているわけでもないのだ。こんな混沌状態の中、これとかあれとか言われたところで、どの触手なのか分かるはずもないだろうけど。


 それに改めて思った。先端部分にあるのはかなり厄介だと。振れはばが最も大きい部分なのだから。根元に近い方が少しは簡単だったかもしれない。


 大蛇の頭部だった箇所かしょがこんな所に移動しているとは、やはり無計画な変異である。理性も知性も失い、よこしま魂魄こんぱく達が荒ぶりすがままに変貌へんぼうしてしまった結果なのだろう。


 ! そうだ、だったら、目印を付ければ良い。


 剣で斬り付けても再生してしまう。しかし、練識功アストラルフォースによる損傷ならば、きっと再生はできない。


 だから一発、せめて一発だけでも練識功のエネルギー塊を当てることができれば、消えない目印きずきざめるはず。


 「印を付けます! ちょっとの間だけ援護お願いします!」


 わたしが叫ぶと、全員大声で応じ、わたしを中心に円陣えんじんを組んでくれた。


 説明も何も求めず、即座そくざに行動に移すなんて、この信頼関係には驚嘆きょうたんしそうになった。


 形や殺傷能力は二の次である。つたないエネルギー弾で良い。目視できる傷痕きずあとを付けられれば。


 皆に信頼され、命を預けられたも同然なのだ。一発入魂、全力集中。一度で必ず決める。


 わたしは剣を背のさやに納め、深く呼吸をしながら、両手の中に青緑色の光球を生み出した。


 数秒で夏蜜柑みかん大ほどになる。強濃きょうのうとは言い難いが、目印を刻むだけならこれで十分。


 緊張の絶頂だったが、あえて呼吸はゆっくりとし、くだんの触手の動きを冷静に目で追った。


 あわてずあせらず、自身の呼吸と触手の動きに集中。


 そして次の呼吸に合わせ、光球を発射した。


 人事じんじを尽くして天命を待つ! でもやっぱり心配! 頼むから当たって!


 光球はわたしのねらった方向へ飛んでいったが、くだんの極太ごくぶと触手の振りが読めない。

 

 この一弾指いちだんし、わたしは祈る想いで光球の行方ゆくえ凝視ぎょうしする。

 

 くだんの極太触手は奇妙なうねり方をし、無情にもわたしの放った光球を回避かいひ……!


  ―――いや、完全には回避できなかった。

 

 光球は原体入りの触手の先端から数メートル離れた部分の表面をめ、そのまま流星のように夜闇の彼方へと消えていった。


 やった! 直撃こそしなかったけど、目印は刻めた。

 

 わたしを信じて耐えてくれた皆と、あと呼吸法を伝授でんじゅしてくれた奏哲和尚そうてつおしょうにも感謝! どちらか片方でも欠けていたら、きっとこの成功はし得なかった。


 本当に良かった。自分自身の体力をかんがみても、もう一度練識功アストラルフォースの塊を作ったら昏倒こんとうしてしまうかもしれないので。


 「あの触手です!」


 わたしは泣きそうな声で叫び、目印を刻んだ触手を指差した。


 すぐさま剣を取って、また触手を相手に振り始めたが、さすがに少し目眩めまいがする。


 「ありがとう、紗希! 上出来じょうできよ!」


 局長からのねぎらいの言葉で元気が戻った。


 「凄いよ、紗希ちゃん!」


 ノエル先輩からも称賛しょうさんされ、さらにさらに超絶元気がみなぎった。


 単純とは言うなかれ。愛の力は強いのだ!


 「行けるのか、ノエル⁉」


 見えないベルウッドさんはわたしの功績をたたえてくれない。まあ許してやるか。


 とりあえず、真打ちのノエル先輩が認識できれば問題ない。


 「行けます!」


 ノエル先輩は答え、練識功の剣を作った。


 「一番オイシイ部分をくれてやるんだ! しくじるなよ!」


 ベルウッドさんが鼓舞こぶをかます。


 原体入りの触手を目掛け、ノエル先輩が雪をった。


 わたし達はノエル先輩の行く手の確保、死守にてっするのみ。


 ノエル先輩の全力突進! 触手の動きを見きわめながら、原体のある位置へと接近してゆく。


 ……が、おりから、なぜかノエル先輩は短く叫んで突進を止め、横転した。


 その直後、いや、ほとんど同時の刹那せつな、ノエル先輩が踏み出す予定だった位置に、ななめ上から何かが隕石いんせきよろしく衝突した。


 実際に隕石が地面に衝突する場面など見たことはないが、たぶん、こんな感じなのだろう。


 その隕石のような何かの正体、触手とは違う。

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