今さらのプロローグ 1 とんでもない逸材を発見してしまった。

 これはわたしがベルウッドさんと初めて出会った時の話である。本来、最初に話すべきことだったのだが、乙女の恥じらいもありためらっていた。

 

 はっきり言わせてもらうと、ベルウッドさんの第一印象はキングオブ最悪、下の下の下だった。

 

 むさ苦しい風貌ふうぼうに息が詰まりそうなほど強烈きょうれつかせたコロン、そして下心丸出しの立ち振る舞い。

 

 特に、わたしはコロンなどの香水のたぐいが苦手で、汗臭い方が幾分いくぶんマシだと感じるほどなのだ。

 

 順番が狂ってしまったが、今回はベルウッドさんがアンブローズのメンバーに加わった経緯けいいを語らせてもらうことにする。


 


 わたしは勤務時間外でもつね練識功アストラルフォースの保持者が近くにいるかどうかを意識するように心掛けていた。アンブローズのメンバーの中で、この練識功を察知さっちする能力にもっとけているのはわたしであり、仲間を増やしたいという局長の意向いこうもあったので、できる限り協力したかった。

 

 アンブローズのメンバーに加わって二ヶ月ほどった夜のこと、そろそろ夕飯の時間帯にもなるころ

 

 わたしは今までにない強い練識功を感じ、夜のにぎわいでく街中を早足で歩いていた。

 

 いくら地方都市でもならず者はいる。夜の街をわたしのような見目麗みめうるわしい乙女が一人で歩いていると、得体えたいの知れない連中にちょっかいを出されることも多い。なので、わたしは最近古着屋で買ったこん色のフェルトハットと、同じ色の紳士しんし物のハーフコート、それにサングラスという、少し奇異きいないでたちをしていた。

 

 もちろん、良からぬ連中にからまれたところで撃退げきたいするのは簡単だが、面倒事は極力きょくりょくけた方が賢明けんめいで時間の無駄もはぶけるというもの。

 

 数分歩き、繁華街はんかがいから少しはずれた通り沿いに入る。

 

 繁華街ほどではないが、それなりの人通りはあった。

 

 わたしは強大な練識功を感じる場所まで来て立ち止まった。

 

 まだ新しそうなコンクリート造りの小さな建物。木製のドアには『ベルウッド整体院』と書かれている。

 

 一、二度通ったことのある場所だが、今まで練識功の存在に気付かなかった。

 

 こちらがわの窓からは灯りが見えないので、裏口へ回ってみる。

 

 今度は小さな窓から灯りが確認できた。

 

 わたしはドアをノックしようとしたが、はたと手を止めた。

 

 よくよく考えれば初めてのことだ。一体全体、どのように用件を切り出せば良いものやら? 夕飯時にいきなりたずねてきた見ず知らずの無礼な小娘の話など、真面まともに取り合ってくれるだろうか?

 

 などとあぐねていると、ゆっくりとドアが開けられた。

 

 中から男性が姿を現す。

 

 「あ、えっと……こんばんは」

 

 まさかノックもしないうちにドアが開けられるとは思わず、わたしは面喰めんくらいながらも、半ば反射的にサングラスを外して挨拶あいさつした。

 

 まずはキツ過ぎるコロンが鼻を突いた。次いで伸び放題のひげとぼさぼさの髪。髪のゆるいカールは天然パーマと思われる。小麦色の肌も日焼けによるものではなく生まれつきだろう。白地に水色ストライプのシャツのボタンを二つ分も掛け違えていた。

 

 しかし、何よりわたしがおどろいたのは、男性のだった。両眼とも灰色で、眼球自体は動きまばたきもしているが、こちらに視線と焦点しょうてんが合っていない。

 

 つまり、見えていないのだ。何らかの原因で失明しつめいしてしまったのだろう。

 

 そのこととは関係なく、わたしはこの時この男性を実年齢より二十ぐらい上に見ていた。怒られそうなので、本人には永久に内緒ないしょだが。

 

 さて、真面目まじめな話、全盲ぜんもうの人物をスカウトするのは如何いかがなものかとなやんでしまった。わたし達が相手にしているのは恐ろしい怪物である。いくら練識功があっても、果たして戦力になるのかどうか……?

 

 「やあ、早かったね。入って」

 

 なぜか、こちらがウットリしてしまいそうなほど甘く優しい声。

 

 この人、わたしの訪問をあらかじめ知っていたのだろうか?

 

 予知までできる練識功の保持者。とんでもない逸材いつざいを発見してしまった。

 

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