エピローグ 最終話 まるで告白のような台詞。

 「俺みたいなイケてる男と付き合ったら、あんな青瓢箪あおびょうたんじゃ物足りなく感じるぞ」


 ノエル先輩を侮辱ぶじょくするとは聞き捨てならない。


 「ノエル先輩はわたし史上一番素敵な男性ひとです!」


 「何が『わたし史上』だ? どうせパパ以外の男と付き合ったこともないんだろ」


 「そんなことないです! 弟だっていたんですから!」


 「もういい。聞いててあわれになる。まあ、お前さんはまだガキンチョだし当然だ。それよりな、真面目まじめな話だが……」


 ベルウッドさんは急にあらたまった。


 「お前さんが学校に通うことになるなら、俺は整体院を閉めて、アンブローズの仕事に本腰ほんごしを入れる。二人ともバイトじゃたよりないしな。何より、局長を困らせたくはない」


 「別に……学校なんか行かなくてもいいですよ」


 「そういうわけにもいかないだろ。お前さんを卒業させるって、お義父さんと約束したんだ」


 そのお義父さんって呼ぶの、いい加減にやめろ。


 「あとな、紗希。これはお前さんに約束する。俺は一日でも、たとえ一分一秒でも、お前さんより長生きしてやる」


 「……な、何です? いきなり……?」


 不覚ふかくにも拍動はくどうがピッチを上げ、ほほがほんのりと熱をびるのが分かった。


 まるで告白のような台詞。いくら相手がこんな気取り屋莫迦オヤジでも、可憐かれんな乙女であるわたしは動揺してしまう。


 第一、順当に考えればわたしの方が長く生きるに決まってる。……いや、このオッサンのことだから、二百歳ぐらいまで生きたりして。


 「俺が死んだら、お前さんはまたビービー泣くだろ。それを知ってて、先には死ねない」


 「な、泣きませんよ! 喜んで遺品いひんをあさって……myu!」


 反論しかけたわたしは、ベルウッドさんの両手に頬をムニュっとロックオンされ、短い悲鳴を上げた。


 「照れるな。顔が熱いぞ」


 ベルウッドさんはニタニタと気色悪い笑いを浮かべながら、わたしの頬を何度もムニュムニュした。


 「照れてませんって! 莫迦オヤジ!」


 わたしはベルウッドさんの両手を叩き退け、ソファへと突き飛ばした。


 「純真無垢じゅんしんむくな乙女をからかったばつとして、今日は朝ご飯を作ってもらいます!」


 「いつも俺が作ってるだろ! たまにはお前さんが作ってみろ!」


 「お子ちゃまにはたっぷり睡眠時間が必要なんです。ご飯ができたら起こしてください」


 「こういう時だけお子ちゃま面するな! そっちがその気なら俺にも考えがある」


 言うなり、ベルウッドさんはわたしの腕を引っ張った。


 「わっ、ちょっと……っ!」


 「必殺ジョリジョリ攻撃だぁ! 喰らえええ! 思い知れえええ! 我が怒りの鉄槌てっついを!」


 世にも恐ろしいあの顔面凶器きょうきが、わたしの頬におそい掛かってきた。


 「ひゃああああ! ごめんなさいごめんなさい! これからは早起きしますからあああ!」


 かたわらではガン助が首をかしげてキョトンとしていた。



                         極東のアンブローズ 完



◆あ と が き◆


 拙作を最後まで読んでくださり、感謝致します。


 当初、ここまで長い話にする予定ではなかったのですが、気付いたらかなりのボリュームになってしまいました。


 続編(まだほとんど書けておりませんが……)はもう少しコンパクトにまとめられたら、と思っております。


 他の作品も不定期ですが投稿させていただきますので、お時間の許す時に覗いてくだされば幸いです。


 これからも、私も皆様の作品にお邪魔致します。 


 改めて、『極東のアンブローズ』に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。



                               そうすみす

 


    

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極東のアンブローズ そうすみす @sou_smith

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