第四章 2 あとはお前さん一人で逃げろ。
けれども、どうしたことか、彼らは急にわたし達から距離を置き始めた。いや、わたし達からと言うより、この
理由はどうでも良い。とにかく今は逃げるのみ。
背後からのボーガンに用心しつつ渓谷を抜け、斜面に差し掛かった。
連中は引き波のように後ずさり、わたし達を
昼間は渓谷出入口でアイゼンを使用したが、今は
後ろを警戒しながら上ってゆくが、やはり誰一人として追いかけてはこない。
やがて斜面の半ばを過ぎると、彼らは
何が何だか分からないが、とりあえず一安心。
軍曹の咳込みが次第に激しくなり、
これは一安心もしていられない。
「……紗希、あとはお前さん一人で逃げろ」
軍曹はわたしが恐れていた
「駄目です! 一緒に来てください!」
「目が……
「だったら、わたしが歩かせますから」
わたしは軍曹の左腕を自分の肩に掛け、強制的に立たせた。
「……強引な奴だな。局長以上だ」
軍曹は泣きそうな声で
追手が
だからと言って、渓谷内で吹雪が収まるのを待つのはもっと危険である。
結局のところ、選択の余地はないということだ。
念のために背後からの敵の有無を確認しながら、何とか斜面を上り切った。
軍曹の足取りが次第に重々しくなり、息が切れ始める。このままではまた吐血してしまう。
わたしは足を止め、何か方法はないかと考えた。
! 駄目元で試してみよう。
胸に意識を集中させると、体が熱くなってきた。全身がぼんやりと青緑色に輝く。
もしや追手が来なくなったのは、練識功不可のエリアが狐魑魅渓谷内限定だから?
確かめてみたい好奇心はほんの少しあったが、もちろんまた戻って試そうとは思わない。今はできるだけここから離れなくては。
わたしは矢が刺さっていない右肩に軍曹を
「……お、おい、紗希?」
軍曹が弱々しくも
雪が深いものの、少しハイペースのジョギング程度の速さでなら行けそうだ。
一気に村を目指すのは無理だが、ここに来る途中で見かけた
「……紗希、ちょっと待て」
「大丈夫です。練識功を使えるようになりましたから、いくらでも進めます」
「そうじゃなくて……村は反対方向だ」
「………」
立ち止まり、そそくさと回れ右をするわたし。
……やっぱり、何が何でも絶対に軍曹を連れて行こう。
中距離から
銃弾の方は、急所は外れているがちょっと深くまで入っている。
「……ったく、聞いて
軍曹が独り言のように
そう。こんなはずではなかった。
数名の
きっと、
局長もベルウッドさんもノエル先輩も、誰一人としてナヒトのもくろみなど知る
そもそも、わたしが行きたいなんて余計なことを言ったばかりに……。
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