第四章 4 やってくれましたね。お二人とも。
「? 何です?」
「……その……局長と俺は本当に何でもない。色恋
今言うんかい、それ。
せっかく忘れかけていたのに、またいけない妄想が再発してしまいそうで逆効果である。
「さしずめ、局長は
得意気でもありながら、それ以上に
この
「取柄がないなんてそんな……。今回、軍曹がいたから……いえ、一緒にいたのが軍曹だから、ここまで逃げて来られたんだと思います」
お
もしも、同行したのが軍曹以外の誰かだったら、局長でもベルウッドさんでもノエル先輩でも、きっと、あの決死行は成し得なかった。戦場を駆け回り
強く勇敢で賢く、情が厚い人。わたしはこんな人間になれるだろうか?
―――そう。情が厚い。
今頃になって、わたしはとんでもない勘違いをしていたことに気が付いた。
相手を次々に
「そいつは嬉しいな。素直に喜んでおく」
軍曹は照れたように鼻で笑い、次の言葉を
「……それと……紗希、お前さんには事後報告になって申し訳ないが……実はこの前の休みに、俺は……っ」
しかし気になる所で、台詞を中断し息を呑んだ。
その理由はわたしにも分かった。
外から奇妙な音が聞こえてきたのだ。
ヒューヒューという風の音。また少しずつ吹雪き始めてきたのだろう。
問題はそれ以外の音。
まだ大荒れにまでは達してない吹雪の音の中に、何か別の音が混ざっている。
疲労による耳鳴りとも違う。それは次第にはっきりしてきた。
山鳴り? 猛獣の唸り声? 機械音? エンジン音?
もしかしてスノーモービル?
こんな夜分に誰だろう? 村の人が何かの用事で乗っているだけかもしれないし、あるいは考えたくもないが、敵かもしれない。
緊張が走った。
確実に、エンジン音はこちらに近付いてくる。通り過ぎるのか、それとも止まるのか。
恐怖に
「よ、様子を……見てみます」
ああ、声が裏返ってる。深呼吸深呼吸。
「戸を細く開けた
わたしは言われた通り、戸を少しだけ開けて外の様子を
人工的な光である。
程なくして、吹雪の中からスノーモービルが現れた。防寒用の帽子とマスク、それにゴーグルまで着けていて顔は見えないが、やって来た人物は体型からして男性のようだ。
風の音が大きくなってきた。もはや猛吹雪である。
「誰か来ました。男の人みたいです」
わたしは軍曹を振り返り、小声で言った。
「……嫌~な予感がするな」
軍曹は立ち上がり、身構えた。
わたしも
反射的に飛び
「やってくれましたね。お二人とも」
男性の第一声。そしてゴーグルを目上に上げ、マスクを下ろす。
その知った顔を見て、軍曹とわたしは絶句した。
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