第71話 伝染病
071 伝染病
スキルが感染するという世にも奇妙な病気が存在するのだという。
アルという男は、放射系魔法に関するスキルを苦手にしていた。
彼は、所謂身体強化系魔法の駆使者である。
そのために、放射系魔法は得意ではなかった。
魔刃は、その放射系魔法に近いらしく、男には習得できなかったのである。
そのために、仲間は、解決策として、迷宮に挑むことになる。
そして、もうすぐ魔法石なるもの、それが完成する間際のことであった。
朝目覚めると、スキル『魔刃』がNEWとなって現れたのである。
そもそも、血を吐くような厳しい訓練の果てに得るものが神の恩恵であるスキルのはずなのだが、どうも、それはこの環境では、そうではないのだ。感染するのだ。神の恩恵と厳しく教わってきた男には、にわかには受け入れがたいことだが、現実はそうではなかった。
私は、神から見放されたのかもしれない。
元神殿騎士団の男はそう考えても不思議ではなかったであろう。
そう、彼は、自称魔王の戦友として、戦っているからである。
「これで、魔刃問題はひとまず解決しました、さすがはご主人さまです」
この場合は本当にそうなのかもしれない。
そもそも、女たちが、迷宮に送り込んだのには、理由があるのだ。
情報収集AIを兼ねる女は、目覚めてから、この星の情報をつぶさに収集していたのである。
そして、それらの情報から導きだされた結論のいくつかが、以下である。
1男は馬鹿である。
2男は見栄を張りたがる。
3美人に弱い。
4たまに暴れる。等の理由から、男達に適当に暴れさせることが最も最適な解ということが判明していたのである。
この際、自分たち(女たち)が決して、男達よりも強いこと気取られてはいけない。
そういった場合、必ずのちに破綻する。簡単にいうと、男を立ててやらねばならないということだ。見栄を張らせてやらねばならないのだ。めんどくさいが・・・。
勿論、パーフェクトソルジャーたる彼女らはそのようなことは考えない。そいて、この魔宝石問題は簡単に解決できたのである。
自分たちが、迷宮を攻略すれば、たやすい。
それどころか、いままで収集していたものを使えば、それは作ることができるのだ。
あえて、それをさせることで、暴力衝動を発散させてやる必要性があっただけなのだ。
いわば、彼らは彼女らの手のひらの上で転がされていたようなものである。
だが、良かったことも勿論ある。
迷宮攻略、エクストラハードにより、急激にレベルがあがった。
この世界の上級冒険者は、50~60程度がほぼ天井になるが、その男は20階層を制覇するだけで、40程度まで上がっていた。おそらく30階層を制覇すれば、50~60にもなることは確実だったが。レベルが上がれば、簡単に死ななくなる。より長生きさせることが容易になったということである。
「今日からは、お前の秘技を教えてくれないか」
「?」
「秘技だ」
「それは、さすがに人前では恥ずかしくていえん」
「なんの話をしているのだ」
「アレの時の秘技だろ、ちょっとまだ昼間だぞ、まあないこともないけどな」
「!」
「違うわ馬鹿者!剣技、アーツだ」顔を真っ赤にして怒るアル。
「おお、秘剣な、あれな、てっきりアレだと思ってたよ、アルはダメなのかなと思ったぞ」と男。薬の話以来そのことが非常に気になっているのであろう。
「だからなんの話をしているのだ」
アルが男の耳を引っ張っていく。
「痛い!痛い!」
「御主人様いってらっしゃいませ」
訓練場へと。
貴族屋敷を買い取ったものなので、訓練場までついている。
「でも、俺は免状は持ってないんだよね」
「どういうことだ」
「免許皆伝じゃないということだ」
「あれだけ使えて免許皆伝ではないだと!」
驚きの結果だ。この世界でもその制度に似た制度があるのであろう。
そう、男は免許皆伝ではない。
たとえすべての業を使えたとしてもだ。
「閣下、我々にも、刀をお授けください」そこには、訓練中の親衛隊(DNA強化された囚人、その後精神コントロールも多少受けている)が近づいてきた。
「閣下の剣法こそ、世界を変えることができる真の剣法です。ぜひとも我々にご教授ください」すでに、そのような傾向を刷り込まれている親衛隊。
本当にそうなのだろうか?
それは、幻影なのである。
彼らは、只の奴隷で囚人だったのだ。
決して戦士でもなく親衛隊でもなく配下でもなかったのである。
だが、ここにそれは有ったのである。
彼らを作り出したのは、女たちだった。
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