第30話 ワールドエネミー
030 ワールドエネミー
子爵領某街の某所
「私は、これから、師匠の遺言を執行しなければならない、お前たちはどうする」とツク。
「俺は、兄貴と行く」と盗賊のマリウス。
「どこに行くのだ」と戦士アース。
「王都だ、師匠の家は王都にある」
「そうか、俺はいけない」何か悪い思い出でもあるのだろう。
勿論俺も悪夢の記憶しかないがな。
「皆には、子爵家からいただいた財産を分けてやるから好きにすればいい」
「そういうわけにはいかない」とアース。
「アース、お前はそう言っても、他の人間には、そういう考えはあるまい」
「嫌、俺の勘が兄貴について行けと言ってる」とマリウス。
「そうです。俺たちは、ツクさんがいないと死んでいた、命の恩は命で返すのが掟っていうもんです」と一人がいう。渡世の人間だろうか。
結局この30人は皆、俺とともに行動することになる。
しかし、さすがに、ぞろぞろと王都に行くわけにもいかない。
「アース悪いが、拠点を作って、彼らを鍛えてくれ」
王都嫌いのアースにお願いする。できれば俺も行きたくない。そう、王都には、勇者候補たちがいる、彼らは特殊スキルを持ちかなり凶悪な強さを持つ。
勇者とはそういう物である。
まあ、今回は彼らと戦うわけではないがな。
「わかった、他に何か要望はあるか」
「ああ、孤児院の子供を雇ってやってくれ」
「お前は、子供を!」
「そういうお前はなぜ反対なのか」
「・・・わかったよ」
この世界では、命は木の葉より軽い、親なしの子供など全く人間扱いされないことは火を見るよりも明らかである。
「スラムにいる才能のある子どもも雇ってやる必要があるな」
「お前が、鑑定してやれ」
「いや、私の配下に加われば、才能が花開くに違いない!」
「お前!」
「声が聞こえる、苦しんでいるもの達を助けよと!」嘘であった。
師匠の話、スキル伝染病の事を思い出していただけだ。
どれだけ感染力があるのだろうか?
直接会わなくても感染するのであろうか?
「兄貴が聴く声は、悪魔の声じゃないの」とマリウス。
「違う!死神の声である」そこには、冷たい憎悪が熱く燃えていた。
こうして、その他にも連絡手段、場所などを決めて、俺とマリウスは旅にでる、王都へと。
俺は、その前に髪の毛を脱色剤で色を抜く。それは黒かったのだ。今は茶から金に近い色になった。
疲れて死にそうだった顔からは、その死の隈取は取れて、ようやく人間らしい姿になっている。
死にかかっていた人間の体からではなくなったせいでもある。
マリウスはもともと金髪だった。
あまりにも汚かったのでわからなかったが、汚れを落とせば、なかなかに男前のもて男の顔立ちだった。ブルーアイが印象的だ。別の町の宿に、ゴブニュが待っていた。
「おお、おやっさん」
「お前、ツクか?」
「違う、ルセール・ド・ツク・ゾーレオパルドだ」
「何!」
偽の身分証を作り持っているが、本当にそう書いてある。
「貴族の
「この国の貴族でないから問題ない」
「ゾーレオパルディアじゃないの」
「そんな本当の名前いったらばれるだろうが」
「まあそうか」
「どいうことだ」
「ツクが有名な武人をヤッた」
「おい、武門で有名な家だぞ」
「だから、ゾーレオパルドだから問題ないって」
「名前が似ていると、親戚が多いんだぞ」
「そうなのか?」
「そうだぞ、名前が同じだと一杯になるから、少し変化させて一族感を出しながら勢力を増やしていくんだぞ」
「じゃあ、昔親戚だった的な話でいいんじゃね」
「駄目じゃろ!」
「貴族らしい恰好しているからいいだろう」
少し高級な装備を身につけている。それは、男爵家からいただいた装備品や衣装だった。
女子供は助命された。不届きな行為に及んだ脱獄囚はその場で処刑された。
そして、女子供は、決してツクの事を仇と考えることなく、生きるように言い渡された。
しかし、そうもいくまい、自分の親を殺されたのだから。
だが、今度は助けることはないとも言い渡していた。
ワールドエネミーに敵対すること自体は、この世界における正義である。
しかし、命を懸ける必要があるというだけだ。
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