第29話 名を盗む悪魔

029 名を盗む悪魔


軍団長の剣は、悪魔の頭を真っ二つにするはずだったのだが、それは受け止められた。

「残念、いまひらめいた。わが技のえよ」悪魔は満足そうに笑った。

それは、無刀取りの位である。


「借刀殺人!」剣先が軍団長の喉を貫く。

「・・・・」喉笛を切り裂かれては声を出せない。


「あんたは強かったよ、だからあんたの名前をもらい受ける」悪魔はいった。

「祈りが足りなかったか、それとも信心が足らなかったのか、アーマベルガーを拝んではならんぞあれは、である」


すでに、軍団長は死んでいる。


「ツクよ、やったのか」そこに、マリウスとアースがやってくる。

「ああ」

「ツク兄貴、あんた目が赤く光ってるぜ」

「身体強化がかかり過ぎているんだ」とアース。

「悪魔みたいに目が光ってる」

「夜目も効くが、悪魔に見えるぞ」

「アースもできるのか」

「嫌、それほどの強度でかけることが無理だ」

「そうなのか?」

「ああ、魔力量の問題と人間の体の限界でな、筋骨が砕けるからだ」何気に恐ろしいことをさらりと言う。


「この方は、アルセール・ゾーレオパルディナ様ではないのか」

「知ってるのか」

「ああ、かつて王国第3騎士団長だった方だ」

「立派な騎士だった」思ってもいないことをいう男。


「さあ、領主を探せ、宝物は見つかったか」

「ああ、宝物は今接収している、領主はまだ見つかっていない」


「その部屋にいるだろう」そこは、アルセールが守ろうとした部屋である。


「おい出てこい」

執務室に入る。

豪華な調度が整えられている。儲けが多いのだろう。


「そこにいるのはわかっているぞ」

それは執務室のデスクの影である。


「無礼者め!」

小太りの男が出てくる。


「儂を誰だとおもっているのだ、デーデルス子爵であるぞ、頭が高い」

「俺は、ルセール・ド・ツク・ゾーレオパルドである、控えよ」

「なんだそれ?」とマリウス。

「俺は名を盗まれた、ゆえに新しい名前を欲するのである」


「ふざけるな!お前は貴族では無かろうが!」

「ふざけるな!貴族でないから虫のように踏み潰していいと思っているのか!」


又、目が赤く光り始める。

「悪魔!」

「悪魔?どっちがだ?人間を虫けらのように殺す貴様らが悪魔ではないのか」


「悪かった、助けてくれ、お前を雇ってやる。そうだ、アルセールの代わりにな、お前は強い」

「おっさん、大丈夫か?俺は高いぞ」

「わかっている、金なら出す」

「だが、いまあんたの財産は俺の仲間が一生懸命、額に汗して運んでいるが、他にあるのか、言ってくれ、それも運ぶ必要があるからな」


デーデルス子爵の顔が真っ赤になる。

「貴様!ただで済むと思っているのか!儂の寄り親は、侯爵様だぞ決して許さん」


「心配はいらんさ、俺はこの国から捨てられたんだ、今更侯爵だろうが、王だろうが関係ない」

「何!お前まさか巻き込まれか?」とアース。

「違うな、俺は、ルセー・ド・ツク・ゾーオラだ」

「さっきと何か違うぞ」とアース。

「ドにはこだわりがあるんすか、兄貴」とマリウス。


そうかもしれない。貴族だったかもしれない。

だが、そんなものが何になる。

そして、それが何の足しにもならないことは明らかだった。


「無礼者め」子爵が抜剣して切りかかってくる。

まるで、ハエが止まるほど遅い。

一撃で剣を跳ね飛ばす。

「まるでハエが止まるほどだったぞ」


「俺の正体を教えてやる」ツクは、子爵の巨体を片腕で釣り上げた。

「俺は、悪魔じゃない、死神だ」ツクは子爵をほうり投げた。

ガラス窓にぶち当たり砕け散りながら、子爵は空中に投げ出された。


「うわ~」ドップラー効果で声が少しだけ小さくなっていく。


ベシャリという音が響いた。


カエルのように手足を広げた子爵の体から血が溢れだしてきて広がっていく。


「デウスが待っている世界に帰れるんだ、感謝してくれよ」

いままでの悪行では、それは無理な話であったろう。





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