第28話 領主館

028 領主館


「伝令!」

「伝令!」

領軍の兵士が走ってくる。

「どうした!」

「はい、脱獄囚の中には、強力な戦士が複数存在して、苦戦中です。増援を要請します」

「ち!領主様に報告だ」

「は」

門の前で、繰り広げられる会話。

門衛は中に入っていく。


「お前達は、中で休んでおれ」

「は、ありがとうございます」


それから30分後、増援部隊が急遽きゅうきょ編成され、出発していく。

門が閉じられる。


その様子を眺めている男達がいた。

「あそこを動かせば、開くようだな」

「そうだな」

それは、ツクとマリウスだった。

「壁を砂にすれば入れるんじゃね」

「マリウス、お前顔に似合わずなかなか頭いいな」

「兄貴それはないんじゃあ」


「失敗すればそうする」


「ありがとうございました。休息をとれました」門衛に話しかける男。

「そうか」

ナイフが閃き、首が切り裂かれる。

「ぐ!」

声も出せず、うずくまる門衛。

「なんだ!」

もう一人が槍を構えようとするが、男の長剣が鞘走り、首を切り裂く。


門が降ろされていく。

30人の脱獄囚が集まってくる。

「殺すことは構わん、しかし、神に顔向けできんようなことはするな」

「は」

彼らの何人が言うことを聞くかは知らないが、そのような奴とは縁を切るだけである。

「どこへ行く」とアースが声をかけてくる。

「領主様に挨拶を、マリウスは宝物庫を探せ」

「あいよ」


領主館の本館は豪華な石造りの建物である。

分厚い扉を開く。


「貴様、なんだ」

さすがに、只の兵卒は入ってくる筈がないのか、すぐに誰何すいかの声が飛んでくる。

「は、領主様に申し上げたきことがございます。」

膝をついて、顔を下げる。

「お前は?」

「はい、伝令でございます」

「なんだ、さっきの救援依頼はもう部隊が進発したであろう」

「はい」

「ではなんだ、貴様のような一兵卒がお館さまの屋敷に入ることは許されんぞ」

「・・・」

「名前は?」ずかずかと近寄ってくる。

ツクの剣が下から上へと鞘走る。

「ぐは!」

怖ろしいほどの力がこもっていたのか、胸の鎧を砕きながら、兵士を吹き飛ばす。


しかし、その物音は、屋敷のエントランスホールに響きわたる。


「何事だ!」

直ちに数名の兵士が階上から現れる。

「貴様!何者だ」

それは、領軍の鎧を着た不審者だった。

「敵襲!敵襲!」

この館に何人の兵士が残っているかは知らないが、仲間を呼ばわる兵士たち。


だが、男もただ待っているわけもない。

疾風のごとく階段を駆け上り、一刀を振り下ろす。

瞬く間に3名が討ち取られる。


「貴様!」

さらに数名が、ツクに殺到する。

だが、その剣を一撃で払いのける剛腕。

手甲をつけた拳が兵士を殴りつける。

魔力により体を強化された男の動きはすでに人間離れしていた。


さらに数名が犠牲になる。

男の目は赤く光っていた。

身体強化の魔力が目にも作用し、光を発するのである。

それをして人々は悪魔の目だったと証言するようになる。

伝説上の悪魔は例外なく赤く光る眼をもっていたからである。


男の身体強化魔法はまだ達人の域に達していないため、余計なところに力が入り、いまは目が光っているのである。興奮しすぎてもいたのだ。


「貴様!悪魔か!」

ごつい男が現れた、領軍の軍団長であった。

軍団といっても、一領主の軍はせいぜい1000程度である。

この街の領主の軍は500程度である。


「兵の訓練が足りていないのではないか?」

目が赤く光っている男はそれすら自覚していない。


「悪魔め!神よ加護を与え給え!」

「すまん!少し聞きたいのだが加護は得られたか?」

「死ね!」

軍団長対悪魔?の剣戟が始まる。

だが、さすがに歴戦の戦士だった、軍団長の剣は覚えたての無駄の多い剣法を追い詰めていく。


「さすがに、強いな」

「悪魔よ滅せよ!」

軍団長の剣が、悪魔を襲う。

受ける悪魔。しかし、もともと、倉庫から盗まれた2流品の剣では限界があった。

ついに砕け散る。


「悪魔め、名を聞いておこう」

「ははは、悪魔は傑作だ。逆に聞こう。お前の名前は?」


明らかに、軍団長の方が圧倒的に有利なはずだった。

悪魔の剣は砕け散ったのだ。


「では教えてやる、魔界で儂の名を吹聴ふいちょうせよ、儂の名は、アルセール・ド・ゾーレオパルディナ」

「なかなか、結構な名前だ、貴族か」

「無礼者め、ドが貴族しか名乗れんことを知らんのか!」

「知らんな、名を奪われし我なればな」


「無礼は死んでびよ」

一直線に剣が振り下ろされる。


バシッ!その剣は、悪魔の両手の手のひらではっしと挟まれていた。




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