第27話 反乱の夜

027 反乱の夜


「鉱山の方で火の手が上がっています」

領主館の見張り台が発見したのである。

夜の光が少ないこの世界では、夜の火の手は非常に目立つ。

「領軍を出せ!あそこには、重犯罪者収容施設が存在するのだぞ」

「は、直ちに」

領主は、悪態をついた。

なんで、こんなことが起こっているのだ、兵士たちは何をしているのか?

100名近い兵力が常駐しているのである。

「ウッソ様にも、連絡を取れ」

彼は、帝都にいる。どんな報告がいこうと事態の解決には役立たない。

「よいか、逆らうものは皆殺しにせよ」

「は!」


面倒くさい時には、皆殺しが一番だ。

そもそも、鉱山はウッソの持ち物だ。

儂には関係がない。死ぬのは、ウッソの奴隷なのだから。

たとえ一部自分に還流される資金があったしてもだ。


同じような考えを持つ男がいるとはこの時領主は知らなかった。

「追い回されるのも不愉快だ、追っ手はこの際皆殺しだな、デウスの信徒でないことを祈ろう」師匠との約束は多少覚えていたようだ。この男は都合の悪いことはすべて忘れる性癖なのである。


殿しんがりを引き受けた男は落城しつつある燃える城塞を見上げていた。囚人と仲間のほとんどは森に逃げ散っていた。

一人、大門の手前で、敵がくるのを今や遅しと待ち構えていたのである。


200人の部隊が、現場に向かう。

隊長とその側近は馬であるが、ほかの者は、徒歩である。つまり駆け足である。


「貴様!何者だ」

鉱山(監獄)の大門の前に一人の男が立っていたのである。

さすがに、隊長もこの展開を考えていなかった。

戦乱のようになっているか、逃げてくるもの達と出会うのか、そのような展開を考えていたのである。

「首謀者ということになっているようだ、だが、認定したものは死んだ」

「名前は名乗りたくないな」としゃべる男。


「愚か者が、この数に勝てるつもりか」続々と兵士たちが走ってやってくる。

「何人だ、100はいるか」

「200人だ、貴様は逃げられん」

「領主館にはあとどれくらいいる」

「教えるわけがあるか」

「そうだな」


「皆整列してくれんかね」

「貴様舐めているのか」

「ああ、そうかもしれんな」


「まとめて、始末してやろう」

そこには、すでに人間に対する感傷のようなものはなかったかもしれない。

蚊をたたく人間に、それが生き物であるという考えなどは無いに違いない。

まさに始末するのである。害虫を。


「遅かったので準備は万端だ」

高木の上から数人が、何かの袋を切り裂いて振りまく。

そして、ツクもまた何かをまき散らす。

「貴様、目つぶしか」

恐らく違う。それならもっと刺激性のある物質を使うに違いない。

すでに、アルカリ性と酸性については、思いだしていた。というか知っていたのである。


「イグニッション!」

粉塵だらけの空間に小さな火の玉が飛んだ。


恐るべきはやはり爆発である。

粉塵爆発は、轟音を轟かせる。

近くにいたツクはその炎に包まれる。


「さすがに、熱いな」しかし、直ちに、治癒魔法を自らに掛ける。

小麦粉とアルミニウム粉末、マグネシウム粉末が混在した粉塵に火をつけた結果は非常に重大だった。

多くの者が重度の火傷やけどを負った。

すでに死んでいるものもいた。

無事なものもいた多少いた現場に遅くついたからだ。

さすがに、全員を包むようにはできなかったのである。


後方の兵士たちが逃げ始める。

だが、そこには、数名の脱獄者が立ちはだかる。

兵士たちは、何が起こったかもわからず恐慌状態だった。

命乞いするが、脱獄囚には、彼らに情けをかける理由が全くなかった。


なぜなら、彼等こそ、規定の食料から上前をねて、なおかつ暴力も振るうかたきだったからである。


200名は確実にとどめをさして回られる。

「武器と、所持品、金目のものは確実に確保せよ!」


今そこにいるのは、囚人の中でも、ツク達のグループに入ることを選択した脱獄囚たちである。


「できれば、領主館を攻撃し、生活費を確保したいが・・・」

「それは、さすがに無理ではないか」とアース。

「数を出させれば、問題ないだろう」とマリウス。

「マリウス、何か作戦でもあるのか」

「ああ、救援を依頼すれば、彼らは勝手に出て行ってくれる、鉱山の火も消してくれるさ」

「なるほど、それでいくか」


それは、偽の救援要請で、敵兵士をロックに向けさせるという作戦だった。



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