第26話 ロックの反乱

026 ロックの反乱


夕刻、俺たちは坑道から戻り、牢屋に入れられる。

疲れた体を癒すのだ。

しかし、今日は特別な日なのである。

俺は、さっそく抜け出すことにする。

鎖は、一瞬で鉄粉へと変化する。

扉すら、鉄粉になる。開ける必要がないほどだ。

影を踏みながら、兵舎の食堂に忍び込む。

まかない婦が忙しく兵士たちの食事を作っている。

大鍋がぐつぐつと何かを煮ている。

天井のはりからその景色を眺めている。

可哀そうなカエルがぴちゃりと鍋に放り込まれた。


自分の牢に帰り、革鎧を着込む。

そして、長剣と腰に吊る。


遠く悲鳴が聞こえる。

現場では、悲惨な状況が発生していた。

食堂では、20人ほどが、食事をとっていたが、その毒の効果は圧倒的に早かった。

「ぐは!」

吐き出しながら、のたうつ兵士たち。

「おいどうした!ぐぐぐ」

次々と死神がやってくる。

「毒だ!」

「食うな、毒だ」

だが、別の食堂でも同じような事態は発生していた。

賄いのおばさんが悲鳴を上げてわめいている。


兵士たちは、二つの食堂で夕飯を食っていた。

しかし、調理された料理は同じ場所で作っていたのである。

そして、目を離したすきに誰かが、何かをほうりこんだのである。


食器をひっくり返しながら、断末魔の叫びをあげる兵士たち。


「敵襲の可能性が高い、これは毒を盛られたに違いない」

食事番でなかった部隊の隊長が、冷静に状況を考察していた。

「警戒態勢を上げろ、軍に伝えろ、敵襲だ」

「は」


「それは、困る」

そこには、武装した30名ほどの犯罪者がいた。

「貴様ら反乱か」

「反乱?違う、脱獄だ、無罪の罪で収監されている俺たちの正当な権利を主張するための決起だ」

「お前が、首謀者だな」

「さあ、どうかな、しかし、脱獄者ではあるかな」

「殺せ!」

まだ、40人以上の兵が無傷で存在するのだ。


剣術のスキルもない、犯罪者などたやすく切り伏せることができるはず。

牢獄の番といえどもそのような武術のスキルを持っているのだ。

ただ、騎士団に入ることができなかっただけなのである。


ギラリと剣が引き抜かれる。

それは、一流の剣が見せる怪しい光だった。

俺の剣だ。

「どこからそのような武器を」と隊長。

「そこの倉からだが」と俺。

「問題ないぞ、奴らの武器はそれほどのものではない」と隊長。

「そうだな、それほどの物ではなかったな確かに」と俺。


「殺せ」

「そうだ、殺さねばな」

たちまち剣戟がほとばしる。

一方的に殺戮されるはずの犯罪者、彼らは盗人や普通の庶民、乞食などである。

剣術スキルは持っていない。


「ではこい」

ガキン!

剣と剣とがぶつかる。

力はあるが、それほどの熟練度はない。

「私は帝国剣法を訓練されとるのだ」

「なるほど」

ツクの剣法はアースにならっただけである。


追い詰められている。

さすがに剣術では、相手に一日の長があった。


カンカンと次々と剣が襲う。

そして、その剣筋は確実に急所を狙う。

受けながら、それを学習していたのである。


カキン!

ついに、隊長の剣が折れ飛んだ。

「何!」

「そんななまくらなものを使っていては、いただけませんな、あの世で後悔せよ」

俺の剣が、隊長の頭蓋骨を撃ち砕いた。


「よし、決着はついた、火を放て、囚人たちを逃がせ」

兵士たちはすべて惨殺されていた。


「怪我のある者は、連れてこい」

「はい、こいつらがやられました」

数名のものがかなり深く切られていた。

「アスクレイアよ!」

治癒魔法は速効性を発揮した。

あっという間に傷がふさがった。

「何という効果だ」

「勇気をだせ、私の治癒で治してやる」

「は!」


「全員、ツク様についていくのだ!」

「おおお!」

勿論死んでいれば効くことはない。

切断されれば、生えるようなこともない。

しかし、いまそれをいう必要もない。


できれば、ついてきてほしくない。

それも今言う必要はないだろうな。


こうして、世に言う『ロックの大反乱』が発生したのである。

因みに、師匠のいる場所は、『デスロック』と呼ばれている。


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