第67話 20階層到達

067 20階層到達


10階を突破し、とんでもない量の経験値が流れ込む。

それは、冒険者としては、有難いことである。

レベルが上がると基礎の能力が底上げされるのである。

エクストラハードである分その経験値もエクストラハイだったのである。


10階層突破者は本来この迷宮では、新人の登竜門と呼ばれている。

新人冒険者が初めて命を懸ける状況になるのだが、一人、ベテランがいれば割と簡単に突破できるのであった。


だが、さすがの彼らにしても、かなりの強度の戦闘から疲れが明らかだった。

そこで、宝箱を開け、10階層の迷宮クリスタルをアクティベートするだけで、帰ってきた。


「どうされましたか」ギルドの受付嬢が聞いてくる。

「ああ、何とか10階層を突破した」

「おめでとうございます。これで新人終了ですね、Eランクへ昇格です」

「そうなのか、かなりの難敵だったようなのだが」とアル。


「ぶわっはは」辺りが笑いに包まれる。

彼らにとっては、10階層のボスは簡単倒せるものなのだ。ゆえにあざけりも含まれている。

「腹いて~」

「おいおい、マントのあんたたちは、強いんじゃなかったのか?」

「俺たちは、特別だ。鍛冶のチームなのでな、20階層の時は、強いあんたの手助けをお願いしたいものだな」と男。


「俺は、高いぜ!」と冒険者。

「わかった。金貨10枚出そう」と男。

「閣下、我々がお手伝いします」親衛隊チームもいたらしい。

「いや、彼らが善意で手伝ってくれるのだ、お前たちは、自分のことをしろ」


「えらそうにな、鍛冶チームていうのは弱いんだな」

「ああ、だから頼むぞ、金貨10枚で足りるか」

「ああ、良いぜ。俺たちのチームが手伝ってやるよ」

「助かる」


「俺たちの方が腕がいい」

それからは、金貨10枚の仕事の取り合いが始まるのだが、話の発端はすぐに帰ってしまった。


彼には、集めた魔石を錬金で魔晶石にする仕事が残っているのである。

それに、さすがに、膨大な魔力を放ったために疲労感があったのだ。


「あれは異常だ。明らかにおかしい」

「ああ、親衛隊の人間が言っていた内容と全く違う」

「そうだな、しかし、ワールドエネミーなのだからこんなものだろう、次回はもう少し楽になるだろう」それは、先ほどの冒険者がターゲットになり時間を稼いでくれるだろうという目算である。

金貨10枚で命を張ってくれるのだ、有難いことだ。


翌日から11階層の探索が始まる。

そしてその昼には、20階層の扉の前に到着していた。

彼らは、すでにかなりの高レベル冒険者になっていた。

10階層をクリアした時に。


冒険者ギルドで、「20階層ボスの部屋の扉前に到達した。昨日の約束はどうだ、やってくれるか」昨日の今日で10階層を突破することは難しいはずなのだが、昼過ぎには彼らはやってきた。今は、数々の冒険者チームが帰ってきていた。夕刻から夜の時間帯である。


「早すぎないか?」

「そうか、10階層を突破した時に、レベルが上がったようでな、案外簡単だったぞ、お前達の帰りが遅いから、昼からずっと待っていたのだ」と男。

「おい、俺たちも付き合ってやるよ」狂暴そうな男が割って入ってくる。

「金は有限でな、金貨は10枚しか払いたくないのだ」

「俺たちは、金貨5枚でいいぞ」

結局簡単な仕事だったから、2チームが一緒に行くことになった。

狂暴そうな男が睨みを利かせた結果だった。


「では明日だな、朝に来るから頼むぞ」

「おお、大船にのったきできな」狂暴そうな男がにやりとする。

それは大船ではなく、強盗の乗る船に違いない。


周囲の誰もがそう考えたが、基本的に迷宮内では、自己責任なのだ。

情報収集をしない、彼らがいろいろと悪い噂のある男達を雇ったことが問題なのである。


そして、次の日の昼過ぎには、20階層のボスの部屋の扉の前にいた。

「確認しておくが、残りの半金は、お前たちが死んだ場合は誰に渡せばよいのだ」

「その心配はない。」にやりと狂暴そうな男が返す。

「そうか、そちらもか?」

「いや、ギルドに払ってくれ、そのようになっている」

「わかった、任務終了後、もしお前達が死んでいたら、そうさせてもらう」

「あんた等が死んだ場合はどうなるんだ、ええ」

「そうだな、懐に財布があるから勝手に持って行ってくれ」

「有難いぜ」


狂暴そうな男は、舌なめずりせんばかりだ。

迷宮では、何が起こるかわからない。

もっとも恐ろしいものは、モンスターではなく、同じ冒険者という冒険者もいるくらいなのだ。


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