第21話 恩人
021 恩人
俺は寝ながらも、質問は聞いていた。
そうだ、彼らも脱獄したいだろう。こんな場所にいても、何にもならない。
しかし、俺は答えなかった。
気がかりなことが存在していたからだ。
寝ていても周囲の気配を感じることはできる、そうでなければ戦場では死ぬ。
故に、質問もちゃんと聞いていたのだ。
一つは、鉱夫のゴブニュだ。
彼の目的は、ミスリル銀を採掘したいのだという。
それはかなり深い場所らしいが、魔物が出るという。
嫌、そもそも、この鉱山は相当ヤバいのだろうか?
未だに、それらを見たことはない。
この男は勘違いしているが、ゴブニュは、鉱夫ではなく、鍛冶師である。
ミスリル製の武具を作ろうとしているのだ。
しかし、ミスリルは国が管理している鉱山でしか採掘されず、彼の元に、回ってこないのだ。
管理しているというが、発掘されたら、接収されるので、ミスリル鉱山はすべて国家管理となる。
もう一つは、師匠だ、どんな病気かいくら聞いても答えないし、治療法を聞いてもないという。とにかく、ここから脱出しようと誘っても、儂はここで死ぬと一切聞かないのだ。
錬金術の修行は、一年が過ぎていた。
今では、鉄鉱石からナイフを作り出すことができるようになった。
薬草さえあれば、ポーションも作ることできるだろう。
道具があればもっとヤバい系の薬もできるだろう。
それは神への挑戦であろうともな。
「ミスリル銀?ふ~んそんなものが欲しいのか」師匠は上から目線だ。
きっとそういう階級の家に生まれついて、育ってきたのであろう。
「お前の錬金の修行もついに最終段階まで来たといえよう」
「そうなんですか」
「お前は自らの出鱈目さを理解していないが、私はこのレベルに到達するまでに、十年以上の
「・・・」
「初めに説いたが、卑金属から金を作り出すことはできない」
「はい、理解しています」
「そうだな、お前は生来の頭の良さがある。このことは錬金術を学んでいるものには理解できない」
「え」
「彼らは、できると考えているのだ、しかし物事の成り立ちを突き詰めていけば自ずとわかることなのだ」
「そうなんですか」
「だがな、これは初めの話とは全く別の考えだが、それを可能にする方法がある」
「!!」
「驚き、怒ることもわかる。しかし、我等の技術では不可能であることを学んだのだ」
「今まで、いくつかの物を錬金する場合、触媒を使ったことを覚えていよう」
「はい」
「この世界には、不可能を可能にする触媒が存在するのだ」
「!!!」
「数万冊の本を読み、幾人もの教師に教えを請い、行きついた先にその存在を知った」
「師匠!」
「そして、それを作り出すことは不可能だ」
「師匠!」
「それは、超絶な技術と知識を持つ鍛冶師、超絶な技術と知識を持つ錬金術師、そして、世界最強の勇者でなければ、材料を得ることすらできまい。」
「あるのですか?」
「わからん、だがかつて存在していたようだ」
「かつて?」
「教えることはできん、それは神の
「しかし、その触媒の名前くらいは?」
「それは問題ない、『賢者の石』とよばれていた、ほぼ万能な触媒だ。只の水が重病者をも治す薬になったのだという。そして、只の金属を金に換えたのだという」
「賢者の石!」
「そうだ、それが真の錬金術者が目指す高みであり、そして、命を落とす元になるであろう」
「だから、師匠は鍛冶に近い錬金術を使われたのですね」
「そうだ、しかし、これは錬金術とは程遠い技術だが、お前はそれに平気でついてきてしまったのだ、なんという出鱈目!」仮面の目は遠くを見ていた。
「儂を鑑定してみよ」師匠は何か思い出したように、俺に言ったのだ。
「はい、では失礼します」勝手に人を鑑定するのは失礼にあたるそうだ。
「スキルを見てくれ」
「はい、おおお」師匠は、とんでもないスキルを多数保有している。
「おお、師匠おめでとうございます。アイテムボックスと開錠のスキルがNEWになっています。このサインは、新たに会得したものにございます」
「馬鹿者!スキルは練習の果てに、地獄の訓練の果てに得るものと決まっているのだ!儂が開錠をいつ訓練したというのか!」
「え?」
「訓練もしていないのに何でできるようになるのだ!ええ!お前しか原因はいないだろうが!」
師匠はお怒りだ。
高齢者は怒りだしやすいのだ。
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