第13話 採掘

013 採掘


「おお、ツク。もう会えないかと思っていたぞ」とゴブニュ。

「さすがに、昨日の今日ではな、こちらにも準備がいる」と俺。

「そうだな、ここから脱獄するのは、難しい。だが、それからどうするのかということも考えておけよ」

ゴブニュは俺が、すぐに脱獄すると思っていたようだが、俺は案外用心深いらしい。

準備、しかもかなり万全に準備する必要性を感じていたのである。

所謂いわゆる、慎重派なのかもしれない。


「それに、あんたからはもっといろいろと学べるような気がする」

「そうか、それなら儂も安心だ、存分に学んでくれ」ゴブニュは、自分の所為で脱獄しないのではと少し考えたようだ。


それからまた10日間ほど採掘を手伝だった。

「なあ、戦い方を教えてくれないか」

「それはいいが、俺のは戦斧だからな、腕力がいる。お前は人間族だからな。」

「そうなのか」

「もっとごつい奴ならいいだろうが」

「なるほど」

「それに、戦場では、槍の方が、攻撃力がある。しかし、牢獄のような場所では、剣による戦いの方が向いているかもしれん」

「そうか、武器も戦場によるのか」

「そうだ」


「あそこに、銀がありそうだ」

「よし、行こう」

判別できる金属が増えて、貴金属やその他の金属も増えていた。


・・・・

「気配を消せ、それでは、ここにいるぞといっているのも同じだ」

なかなかに、難しい。

開錠のプロ。盗賊なのだろう、男はその手の技術に精通していた。


周囲には、まだ他にも虜囚りょしゅうがいたが、俺が食糧を融通することで、黙っている状況だった。

俺が、修行の成果を試すために、ちょくちょくと出かけ、この牢獄の見取り図などを作成していた。

そして、いろいろと必要なものを、失敬してくるようになった。

だから生活もかなりましになった。

夜の明かりなどもそうだ。

これで、開錠の修行などもかなりはかどった。

開錠をかなり訓練し、錠前の内部構造を熟知したころには、スキル『開錠』が身についていた。

勿論、開錠用の道具も錬金術により、製造することができた。

それは、アイテムボックスにしまわれていて、いつでも鍵を開けることが可能になった。


そして、それは、前の独房の盗賊も同じだった。

彼であれば、脱獄できるかもしれない。

盗賊は徐々に体力を回復していた。

「牢からでても、戦闘になる。俺は、それが苦手だ。」盗賊の男の声だった。

「ああ、俺もそれは考えていた。俺は記憶があいまいで、戦闘のことがよくわからない」

「やはり、習う方がいいだろう」

「とすると?」

「お前の鑑定でスキル程度は見れるんだろう」

なるほど、そうだったな。


俺は、役にたたないといわれている。スキル『鑑定』持ちだ。

知識がないと、詳しくしることができないのだ、そして、知識を持ち合わせているのであれば、鑑定せずともよくなる。つまり、鑑定とは、そういう物ということが言えるだろう。

知っているから、専門家に聞く。

専門家とは、研鑽けんさんを積んで、専門家になるのだ。

専門家は、その専門について鑑定することができるということだ。

なんだか堂々巡りなのだ。


「奥の部屋の男が剣術スキルを持っているようだ」

「ああ、奴か、奴はやめといた方がいいかもな」

「そうなのか」

「少なくとも、俺のように冷静でないからな」

「冷静?」

「ああ、よくある話だ、だまされて、犯罪者にされたんだよ、だから常に無実を証明したいんだよ」

「あんたは?」

「俺は、生活苦で盗みをしないと生きていけなかった。たまたま、才能があっただけだ」

ゴブニュからも聞いた話だが、ここには、本当にろくでもない話で連れてこられた人間が数多くいるらしい。


ここは奈落、地獄の一丁目一番地。

そして、地獄は誘う、早く落ちてこい、もっと深く落ちてこいと。


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