第14話 囚人

014 囚人


「おい、あんた。生きてるか?」

剣術を使える囚人(奴隷?)は、やはり死にかけていた。

この奈落では、仕事の割に、食料が少ないのだ。

これでは、再生産(マルクスのいうところの)ができないのだ。

資本家が、労働者の生み出した価値を搾取さくしゅし続けるためには、労働者に再生産をおこなえるだけの、食料と休息を与える必要がある。しかし、ここでは、その再生産を無視している。

これでは、資本家は、損をしていることになるのだが、そのことに気づかないのか。

それとも、労働力は際限なく供給されるのか。


いともたやすく栄養失調に陥ることができる地獄、ですよね~。

勿論、調子を崩しても働くことを強要されるため、病気で死ぬか、事故で死ぬ。

鉱山の仕事はそもそも命がけなのだ。


「・・・・」

返事がない。只の〇のようだ。

いや、そうではなかった。男は天井を見上げて涙を流していた。

とても、成仏できそうにない。

「あ・・」何とか声を出している風に見える。

人の名前を呼んでいるのかもしれない。

とにかく、鍵を開けて入り、男の口に冷めた塩味だけのスープを流し込む。

ここまで弱ると、食い物自体を受け付けない可能性が高い。

スープを飲むと男は眠り始めた。

仕方がないので、鍵をかけて部屋に戻る。

そのあとは、自習した。忍び足のな。


こうして、生きかえらせるまで数日を要す。

そのころには、忍び足もこなせるようになっていたから、とは不思議なものだ。

「どうやって、ここに来た」

「鍵を開けてな」

「逃げることができるのか?」

「あんたに、剣術を教わろうと思ってな」

「俺は、逃げたい、どうしてもしなければならないことが」

「そうだろうとも、ここの人間には、そういうやつが多そうだ」

「逃がしてくれるのか」

「無理じゃないか。特に一人ではな、だからあんたに教えてもらいに来たんだろう」

「そうか」男はがっくりと力を失った。

ここから脱出するには、力がいる、兵士は少なくとも、40人は数えることができた。

恐らく、もっといるに違いない。


こうして、夜な夜な木剣の訓練が始まる。

カンカン音がしても、兵士は来ない。

警備はゆるみ切っているのだ。

「ここでは、狭い空間での戦闘しかできん、だが、そういう経験は必ず後で生きてくる」

障害物を巧みに使いながら、戦う。

元気になった男は、俺たち!に剣術による戦闘を教えてくれた。

「逃げたくなったら、いつでも言ってくれ、俺は、武器を隠し持っている、それをあんたにやる」

「お前たちは?」

「俺は、まだまだ、学ばねばならない」

「俺は、こいつと一緒に逃げる、その方が確立が高そうだ、盗賊のカンがそう言っている」

「そうか、俺もできるだけ教えよう、そのあと考える」

「そうだな、俺の錠前開けも覚えた方がいい」とマリウス。

「わかった」と囚人。


こうして、不思議な三人組は、夜な夜な特技の習得を目指すようになった。

食事は、盗んできたものをたくさん食うようになり、いざというときに倒れるようなことはなくなった。

また、魔力を体に流すことを覚えた俺は、頑健のスキルも手に入れることになった。

そのことを、戦士の男にいったら、あきれられた。

「そういうのは、秘技に近いと思うぞ」

「なんですと!」

「それだけで、戦闘力が相当上がるはずだ」

「おお~」

「兄貴お願いしますよ」

「あんたの方が、年が上だろう」

「俺の名は、アースだ」戦士の名前らしい。

「ああ、俺はツクだ」

「そうだな、名乗りができていなかったな、俺は盗賊のマリウス」

「ツク、いっちゃあ悪いが、変な名前だな」とマリウス。遠慮がない。

「偽名じゃないのか」アースは人間不信のようだ。

「・・・」確かそんな名前だったような・・・。


「ところで、盗賊って自分で言ってて大丈夫なのか?」とマリウスに言ってみる。

「ああ、外でいうと捕まるかもな」とマリウス。

「なるほど、もう捕まってるしな」とアース。

きっと、そういうことではないはずだ。


少しアースは悲壮感が抜け、笑顔が出るようになった。

もともとはかなりな男前なのだろう。今は泥と垢と髭塗ひげまみれだがな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る