第80話 水先案内人
080 水先案内人
召喚勇者たちは、全員が勇者という訳ではない。
どういう理由でか、魔導士、僧侶、戦士、聖女など様々なジョブの者が存在する。
一クラス30人なので、6人チームで5組できるのである。
だが、そのように 都合よく配分されるわけもない。
勇者とそれに都合の良いパーティーがまず組まれ、他の者は、予備として鍛えられるのである。勇者と戦士(タンク)、魔術士、聖女、盗賊、僧侶が、今のエースチームということらしい。
このチームでは、勇者と聖女が特別クラスである。
「ようこそ、皆さん、メルキアに私がルセール・ド・ツクゾーレオパルディア。皆さまの水先案内を承りました。我が配下の冒険者が皆さまにより効率よく、階層を攻略させるでしょう」と自分の街のような挨拶をする男。
「よろしく頼む」と高校生勇者。
「ふむ、皆さま、私をご存じないですか?どこかでお会いしたのではないでしょうか?」
「我々には、他国の貴族の知り合いはいないが」と勇者。
「そうですか、私をご存じないのですな」と男は自分をアピールする。
「勿論だ」
「左様ですか」下を向いた男の顔には黒い笑顔が張り付いていた。
例の人間革命のせいで、見た目すら大きく変化していたから、高校生たちには、わからなかったのである。勿論中身はすでに魔王にひねくれていたが。
「皆さまは一応最低限の戦闘はこなせるのでしょうな」
「講釈はいい、さっそく彼らを、連れて行ってくれ」近衛隊の隊長がいう。
「そうですか?では、ただいまからメルキア大迷宮をご案内して差し上げましょう」
「そういう、貴公は確か20階層しか突破していないとか」と隊長が嫌味を言う。
「おいおい、こんな人のところで大丈夫なんだろうな」と高校生。
さすがに、こんなおっさんとは言えないようだ。
「ははは、大丈夫です、私ではなく、部下に案内させますので。それにしてもそのことですが、皆さまが30階層を突破した暁には、わたくしの突破の手伝いをお願いしたいのです」
「あんた鍛冶屋なんだろう?なんで潜る必要あんの」
「ははは、さあ、どうしてでしょうな」と男。珍しく激昂しなかった。
「まあ、俺たちに任せておけよ、それよりも俺らのレベル上げが先だけどよ」
「そうですな、ではいってらっしゃいませ」男は頭を下げる。
こうして、召喚者たちの迷宮探索が開始される。
水先案内は非常によかったらしく、召喚者たちは、すぐに深くへ潜り始める。
因みに、行方不明となったギルド職員(金庫破り犯の疑いあり)マキシの行方は杳としてしれなかった。ギルドでは多額の損金を出さざるを得なかった。
一か月で、40階層に到達する。
ここからは、勇者チームは独自の力で進む必要がある。
男の配下もほぼ同じ階層までしか探索できていないからであった。
エース部隊の勇者チームは優秀な装備(国宝級)を装備していたため、あまり感じることはなかったが、その他のチームはそれほどの装備を与えられていないため、水先案内人の武器の良さを身に染みて感じていた。
それに、何といっても浪漫武器の刀である。
この国には、そのような物はないとされていたのである。
しかし、案内人たちは、皆、刀を
「なあ、あんたの刀を譲ってもらえないか」と高校生召喚者。
「無理です、これは我が主人より手づから授かったものでございます。それに剣法ではなく、刀法を習わねば使えません」とにべもない。
それはまさにその通りだったが、高校生たちは中二病を患い、さらに、褒めそやされてきたので、傲慢である。
「買うだけでもいいんだが、勿論売ってくれるだろ」
「私は、知りません、主人にお聞きになってください」
武器屋では売っていたが、例の口に気をつけろのせいで、売ってもらえる者は少なかった。
この話は、すぐに近衛隊の隊長に行くことになる。
せっかく戦ってやってるんだから、刀くらい買ってくれるんだろうな?と。
「ド・ツク殿、その形の変わった武器を欲しがる召喚者たちがいるのですが、売っていただけるのですか」と隊長。
「はっはっは、それは無理ですな。見ての通り、この刀は剣とは形が違うのです。剣はどちらかというと、叩き切る。しかし刀は、引き切るのです。明らかに動きが違います。刀法を会得しなければ使えませんな」とやはりにべもない。
「買うだけでいいのですが」
「そうですか、では鋳造刀でよろしいのではないですか、美しさも強さも切れ味もありませんが、それにおたくの国は貧乏でしょう。この刀は高いですからな」と高笑いの男。以前の嫌味を倍にして返す。この男はそういう男だ。
刀がはやりなので鋳造刀が売られているが、簡単に折れるのだ。
作り方が全く違うので仕方ない。
一体だれがそんなものを欲しがるというのだろう。
「その、普通のものは買えないのでしょうか」
「隊長殿、これは一本一本が手作りです。まさに我が子の如きものなのです。有象無象に譲るものではありません」
「それは少し言葉が過ぎるでしょう」仮にも召喚勇者の仲間なのである。
「そうですか、刀法を学ぶ気もないものは有象無象でしょう」
「習えばよろしいのですか」
「我が門下に入らねば習えませんが、お国はそれでよいのですか?」
自分は他所の国の貴族なのですがといっているのである。
男は、ニヤニヤを隠しきれていない。悪魔でも挑発を止めない。
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