第81話 案内先は・・・

081 案内先は・・・


「致し方ありません、あきらめるように説得します」隊長は憮然ぶぜんとしている。

しかし鍛冶屋とは、案外こういう変わり者も多いのである。


「ははは、そうですな。それがよいでしょう、しかし、魚心あれば水心と申しましょう。実は、私もお願いしたいことがあるのです。それを手伝っていただけるならば、私も、あなたたちに恩を感じるしれません。私は、なのです。まあ、報復は30倍返し程度に返すのですがね」


「何をお手伝いすればよいのですか」

「ははは、お恥ずかしい話ですが、ひと月前の話ですよ、私は、まだ30階層を突破したことがないのです。それをお手伝いしてほしいのです」

「そんなことでいいのですか」あまりに簡単なお願いだった。口を開けば嫌味しか言わない男があまりにも簡単願いをしたから、隊長は驚いた。


「そんな簡単にできるのでしょうか」と怪訝そうな男。

「ええ、聞くところによると、オーガジェネラルが出るそうですが、その程度なら、あの召喚者たちでも突破できるでしょう」

「そうなんですか、でも、入る人間が多くなると、敵も多くなるという経験則がありますよね」そうなのである。基本は6人までで攻略する必要がある。人が増えると、敵の数が比例して増えるのだ。


「オーガジェネラルが2匹になったところで問題ないでしょう」案外たやすく達成できそうだったので、隊長は、やっと自信を取り戻した。


「それを完遂させれば、刀を打ってくれるですな」

「まあ、そうなりましょうね、ただし、打つのは、私を助けてくれたものだけですぞ」

「よいでしょう」

「では、契約をお願いします」

「え?」

「さすがに、迷宮です、お宅の大事な戦力がもしロストしても、私は返すことができません。それを請求されても困りますので、それに、そちらも、私が刀を打たなかったら嫌でしょう?」

それはひどくまっとうな言い分だった。


こうして契約書が作られる。

攻略の手伝いを成功したら、お礼として、参加人数分の刀を作ること。

その攻略で死んでも、国は文句を言わないこと。

生き残っただけしか打たないということ。

どう読んでも、不吉な感じしかしないが、彼らは気にもしないようだ。


契約書の周りには、なんらかの印が書き込まれている。それはルーン真言であった。

「この、周囲の印はなんですか?」

「神への祈りですよ、攻略成功の」

しかしそれは、正確とは言えない。いやはっきり言って嘘である。

約束をたがえれば、全身の血が噴き出して死ぬ。と神の名に掛けて誓約するという内容である。ある時代に流行った起請文(人によっては呪いと考えていた)の一種である。


「さあ、血判を押すのです」

隊長もサインして血判を押す。


30階層攻略のメンバーは男、アル、玉1号であった。マリウスでは危険すぎるので排除されている。

そして、召喚者たちは、中二病を抱える男5人である。

2人ほど定員オーバーの状態であった。

そして、5人の中には、ツクの金を盗んだ男も含まれていた。


「いいメンバーです、本当に、心おきなく戦えるというものです」

莞爾かんじとした笑顔の花を咲かせる男、よほど、5人を地獄に突き落としたいらしい。

問題は定員オーバーの悪影響がどの程度出るかということだけである。


「今度は俺たちが案内してやるよ」と高校生。

「ありがとうございます」しかし、案内人は私です。皆さんはこれからあの世に向かうのですから。男の心の声は、小さく語られていた。聞きつけたのは、玉の耳だけだった。


そして、30階層のボス部屋の前。

扉は開いている。中は真っ暗である。

これらはいつもの通りである。

そして、彼らは、もう何度も30階のボスとはやり合った。

その時により、多少の誤差、個体の強さなどはあるが、おおむね簡単に倒すことができる。オーガジェネラルが2匹いたところで、倒すことは充分可能と判断されていた。


「それにしても、案外おっさん、弱いんだな。ちゃっちゃとやっちまおうぜ」

「召喚者スキルを発動!」

彼のスキルは身体強化らしい。

「目が赤くなったりしないんですか」

「おっさん、何言ってんの、目が赤いとか悪魔の特徴じゃねえか」

「俺たちが、オーガジェネラルを始末するから、あんたたちは、援護してくれ、あんまり期待していないけどな」とチャラい高校生。

「よろしくお願いします」張り付いた笑顔の仮面の目は全く笑っていなかった。


そして、扉の中へと進む一行。

扉が勝手に閉まっていく、なんとも嫌な軋み音を立てながら。


ボボボと青い明かりがともっていく。

「ではお手並み拝見させていただきますよ」

「へん、まかせろや」


奥の部屋から、大部隊がザクザクと進んでくる。それは、軍隊が行進するような音。大部隊が進軍してきたことは、音からも明らかだ。

やはりエクストラハードが発動していたのである。

「何だ!あれは」驚きのあまり後ろ(扉)を見た召喚者。

彼は後ろの様子を見て再度恐怖した、あまりの恐怖にしょんべんをちびってしまった。

後ろには、目が金色に輝く、魔王が三人もいたからである。


「え!」

固まる高校生召喚者たち。


地獄への門はついに開かれたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る