第76話 勇者様御一行
076 勇者様御一行
メルキア大迷宮では、近ごろ、双頭の鷲のマントを来た冒険者たちが、大活躍している。(本当は、双頭の三本足の烏)
彼らは、次々と階層を突破している。
そして、その快進撃を支えているのが武器と防具であろうともっぱらの噂であった。
近ごろは、そのパーティーに魔術師まで加わっている。
このままいけば、50階層突破も見えてくる。
公式記録では、70階層突破という者がかつていた。らしいが、いまは精々40~50階層が限界だった。
この迷宮はだいたいが自分のレベルと階層が同等になるような難易度である。
つまり、チームを組めば、レベル50で50階層ということになる。
つまり、マントの一団はレベル50に近づいているということだった。
この街の冒険者でもかなり上位に食い込みつつあるということだ。
彼らの使う武具は、ルセール・ド・ツク・ゾーレ武具店のものである。
彼は、貴族なので、大変口が悪いと評判である。
気に入らないものには、売らないこともしばしばであった。
彼らマントの冒険者は、この貴族の私兵らしいのだ。
そして、彼らは、このあたりでは見ない武器を身につけ始めたのである。
刀と呼ばれるそれは、独特の流派を持ち、独特の攻撃方法をとることができる。
所謂、魔法剣の類に近いような武技である。
『魔刃』という武技を使い、切れないようなものでも切断するのである。
さすがに、刀だけで防御力が足りない場合は、一人が大楯をもってタンクとして敵に当たる。
皮鎧や金属鎧には、なんらかの印が無数に刻みこまれている。
これこそが、ルセール・ド・ツク・ゾーレの武具である所以であった。
そして、今や両手剣にも謎の印が刻まれている。
武器防具はおっさんが作り、印を男が刻んでいたりするのである。
防具を作り、ルーン真言をほぼ手中にしたおっさんはこの後、国に帰っていった。
いま、この大迷宮では、この貴族の武具防具が大注目の品であった。
そんな街に、王国が召喚した勇者たちがやってきたのである。
勿論、レベル上げのためであった。
そのことを知った男の目が真っ赤に燃え上がり、瞳孔が金色に輝くのであった。
そもそも、事の発端は、この勇者召喚にまつわるのである。
そして、地獄の苦しみと恥辱を与えられたのである。
今こそ、それを返す時であろう!男が絶叫するのも仕方のないことだったろう。
復讐の炎がいままさに噴き出さんとしていたのである。
王国の親衛隊が、冒険者ギルドにやってきた。
ギルド長が恭しく挨拶をする。ギルドは独立組織といわれているが、勿論、王国の補助金がなければ運営などできない。そして活動自体もできないであろう。
あくまでも、自力武装したもの達の集団である。そのようなものをのさばらせる訳にもいかないのだ。うまく国の利益に叶うように誘導するのが為政者であり、ギルドはその手先とも考えられる。
「今回は、勇者たちが、この迷宮にアタックする。それを優先させるように手配してくれ」隊長らしきものが、ギルド長に命令する。
「わかりました、しかし、冒険者の活動自体を休ませるわけにはいきませんが」
「それは、わかっている。だが、ボス部屋などの優先権は我々に認めてもらう」
「はい」
「それと、冒険者の中で、勇者たちを先導できるものが必要だ、適当なパーティーを雇いたい」
「はい、近ごろ、話題の集団が有るのですが、そこに聞いてみましょう」
「ほう、近ごろ話題の集団か、騎士団で兵士として雇ってやっても構わんぞ」
侵略に向けて、兵士の補充は重要だ。
「左様ですか、しかし、ギルドの収益が減るのは困りますが」
ギルドは迷宮産の物資を売ってその利益の一部を得るのだ。働き手が減れば売り上げは落ちる。
「まあ、そいつらにいってくれ、これは国王様からの命令だとな」
その手には、国王令という銀色の棒のようなものが握られている。
「ははあ」ギルド長以下関係者はひれ伏した。
国王令は、国王の命令と同様にせよという、一種の代理となるものである。
「まさか、このような珍しいものを見ることになるとは」
それは、貴金属オリハルコンにより制作された棒というか塊である。
だが、その話題の者たちは、「我らは、ルセール・ド・ツク・ゾーレ様の兵士でございますれば、そのような命令を簡単に受けるわけにはまいりません」とすげなく断ったのである。
「これは、王命であるぞ」とギルド長。
「伯爵様にお問い合わせください、お答えしかねる」とやはり相手にならないのである。
「伯爵はどこにおるのだ」
「無礼者!ギルド長ごときが、伯爵などと、伯爵様と呼ばんか!」
今度は、その兵士が抜剣しかねないほどの怒りを込めて、怒鳴る。
「いや、他意はない、失言だった、伯爵様はどこにおられる」
「貴様如きに教える必要はない」
今度は、ギルド長のこめかみがピクピクと動いた。
たかが、冒険者如きが生意気な!
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