第77話 貴族の鍛冶屋
077 貴族の鍛冶屋
ルセール・ド・ツク・ゾーレは貴族である。
勿論、嘘なのだが、すでに伯爵を名乗っている。
隣国の貴族なので、それほど問題はないのだ。
「没落したが、昔は領土持ちの貴族だった」
「謀略によって、没落したが、私はれっきとした貴族である」
「三代さかのぼれば、公爵家の血を引いている」などという者は結構いるのだ。
だが、どんなに嘘を言ったところで、権力には尻尾振らねばならないという大原則は存在するのだ。だが、世界には何事も例外が存在するのである。
ギルド長がその貴族を探そうとしたが、実は冒険者に登録されていたのだ。
20階層突破者の様だ。20階層といえば、まだ、一人前を抜けた程度のレベルである。
精々レベル25程度である。
ギルド長は、「なんだ、たった20階層突破か、しかも30階層を目指していないではないか」つまり、30階層も目指すことができない腰抜け冒険者ということだ。
「おい、誰か、その貴族のところにいってこい」ギルド長は、部下に命令した。
その腰抜けは、下町で鍛冶屋の真似事をしているというのだ。
ギルドの職員はすぐにその武器屋を発見する。
近ごろ、刀がはやりになっており、それを買うためにはここしかなかったのである。
すぐに、真似を始めた鍛冶屋もいたのだが、独特の製法なので、異常に切れて、強靭な刀はここでしかできなかったのである。
鋳鉄の刀などは、数回戦闘をおこなえば、折れ飛んだのである。
扉には、双頭の三本足の鷲が描かれていた。
「失礼、」ギルド職員が入っていく。
「何か御用でしょうか」非常に美しい売り子が対応してくれる。
「実は、ゾーレ様にお会いしたい」
「まあ、なんでしょうか」
「王国の親衛隊から依頼があり、ゾーレ様の冒険者をお借りしたいのです。勇者様方を先導する大変名誉な仕事なのです」
「貴様は?」
奥から、何か不穏な気配を漂わせて、男が出てきた。
「ゾーレ様でしょうか」
「ゾーレ伯爵である」
「そうですか、いまのお話を聞かれましたか、大変な名誉なことですぞ」
「この国では、庶民ごときが、伯爵にそのような口の利き方をするのか」
「王国の親衛隊が、国王令を持っていました。私はそれを見ました」
「それがどうかしたのか」
「国王令ですよ、国王令」
「その無礼な口を縫い付けてくれようか」
『ルセール・ド・ツク・ゾーレは貴族である。
口の利き方には、十分注意するように』と書かれている。
「小僧、儂は貴族、貴様のようないやしきものと口を利く気はない、無礼討ちに会いたく無くば
「なんという傲慢!」ギルド職員は、この男が20階層しか突破していないことを知っていたのだ。そして、腰には、長剣を
「小僧、抜けば貴族に対する攻撃になるぞ」
「黙れ、20階層しか行けてない冒険者ごときが、いきがるな」
室内の温度が3度は下がってしまった。それは物理現象である。
「貴様、いま死刑が決定したぞ」それは冷たい声だった。
「私を殺せば、ギルド登録から抹消されるぞ」
「なぜ?」
「当たり前だ、ギルド職員に手を出したからだ」
「そうか、それがどうかしたか。ギルド登録が抹消されると何か困るのか」
確かこういう場面がかつてあったような気がする。
首が飛んで、辺り一面が血まみれになるのだ!
人呼んで、黒ひげ危機一〇だったか。(いいえ違います)
天井が血まみれになって、ぽたぽたと落ちてくるのだ。
ギルド職員が剣を抜いた。
彼は、かつて40階層突破者であった。
「本当に抜きやがった」
「少し痛めつけてやる」
「無礼でしょう」奏さんが初めて口を開いた。
「表にでろ!」
「ははは」貴族は悠然と武器屋を出る。
貴族は通りを行きかう人々に宣言する。
「庶民ども、良く聴け、ここにいるギルド職員は貴族の私に向かって剣を抜いた。ゆえに無礼討ちにする、見届けるがよい」
男は、周辺にいる一般人に呼びかけた。
逃げる人々と、わあわあと集まり始める人間たち。
この世界は娯楽が少ないのだ。はやし立てる人々は興味津々である。
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