第91話 追撃戦

091 追撃戦


王都に早馬が走る。

『国王令をもつカナデ王女出国す』

その情報は、暗部を通じて、教皇に届く。

「カナデ王女とは誰のことだ」

「は、アーマベルガー王の隠し子、庶子の姫であると」

「貴様何を言っている。そんな話は聞いたこともないぞ」

「しかし、国王令を持っていたということです。国王自らそれを警護の隊長に手わされたと」

「直ちに王宮に問い合わせろ、この馬鹿者どもが!」

教皇の側近が怒鳴った。

「一体どうなっておるのだ」

「全くです」


王宮に問い合わせれば勿論嘘なのはすぐばれる。

そんな王女はそもそも存在しない。

「そいつらが、敵だ!」

「しかし、国王令が」

「偽物だ!」

そう偽物なのだ、希少金属だが。

「しかし、鑑定の結果は間違いなく、オリハルコンでした」

「では、それを接収するのだ、そうすれば2階級特進は間違いないぞ」

「ははあ」


こうして、討伐隊は、国王令の偽物を奪取すべく、国境付近へと集められる。

この世界では、国境は接していない。国境とは、自分たちが支配できる地域であり、その外は自由国境である。

税を逃れて、そのような地帯にすむものもいるが、やはり国に守られていないと簡単に襲われたりする。

だが、時には、盗賊より質の悪い領主が現れたりする。この世界はやはり厳しい世界なのだった。


すでに、討伐隊の目標はオリハルコンに変化していた。

これが、この国の姿だった。


・・・・・・・

「カア」それは、カラスだった。

敵に動きあり。

カラスの言葉に耳を傾けるようになってしまった。

俺は聞き耳頭巾を手に入れてしまったのか?

そうではない。嫌、違うはずだ。


だが、もっと恐るべき存在がいた。

「ご主人様、敵に動きがあるようです」

なんと、同じことをいう女がそこにいた。

どうやって、そのようなことを知ることができるのだろう。

まだ、カラスの方がわかる。ひょっとするとこの女も聞き耳頭巾を持っているのかもしれない。


彼らは、どこにでもいる。そのネットワークを使用できれば可能かもしれない。

だが、彼女はどうか?

意味がわからない。

決して聞いてはならないに違いない。

嫌、聞きたくない。

又も鶴の恩返し病の症状が再発する男。


だが、その情報は見逃す訳にはいかない。

彼らは、ドワーフ族の国に向かっている、妙なものを連れていくわけにもいかないからである。

彼らが今いる場所はそういう意味では理想的な場所であった。

両側から崖が迫っているような細い道、両脇には、木々が生い茂っている。

ここで、奇襲をかけろというような場所であった。

そして、その場所をこえたところに広い場所が広がっている。

その広い場所に布陣し、両脇の崖の上からと、木々の影から伏兵が攻撃すれば理想的な場所であった。


「よし、ではここに布陣する、カナデ姫の場所を守るように、近衛が配置され、さらにユーゲントの少年兵たちが、それに加わる。

崖の上には、狙撃部隊(買われた孤児の少女たち)が配置される。

魔導銃の初めての実践である。

基本は地球の銃をほぼ同じ。火薬の代わりに魔石を使って玉を飛ばす。

爆発力により、玉を飛ばすのだが、火薬の爆発よりはかなり音が小さい。

そして、それは後送式かつ連発式で作られている。

男の錬金術で、必要なばねも簡単に作り上げることができたからである。

男にとって鉄は、簡単に削り、調質し、変形変化させることができる金属であった。


「カアカア」

烏が鳴いている。敵は大勢といっている。

「カアカア」だいぶ近づいているといっている。

烏まじ優秀。


烏の斥候はなかなか優秀だったがそれを超える存在がいる。

「敵兵の数は、騎兵50、兵500の様です」

なぜそのようなことがわかるのだろうか!

「後一日でここまで進軍してきます」


烏よりもかなり優秀な何か!がここに存在する。

見ているように、しゃべる女。

なぜわかるのだ!


鶴の恐怖におびえながら男は心の中で叫んでいた。

いつか鶴になって飛びさっていく女(鶴だが)を見上げる自分の姿が見えるようだ。


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