第92話 「撃ち~かた始め!」
092 「撃ち~かた始め!」
男はなぜか、鉄砲を一斉射撃するときの掛け声が少し変だった。
「撃ち方始め」ではなく、「撃ち~かた始め!」となる。原因は不明だ。
銃兵として、少し訓練をされた少女たち、彼女らは孤児だった。
男の場合は、『人間革命』を注入されソルジャーとして歩み始めることになる。
だが、女はどうなるのか、どうにもならないはずだった。
本当は、娼婦になればよいのではないか。などといえる雰囲気ではなく、男はその言葉を封印して魔術士としての才能があるかもなどといって、人助けのふりをする。
だが、才能のあるものは、せいぜい2,3人だった。
他の少女はどうなるのか?
そこで用意されたのが、銃歩兵である。
男は、なぜか筒を作り続けていた。
それを見た女が言ったのである。
「これはライフル銃の銃身ですね」そうなのだ、男は無意識のうちに銃身を作り出していたのである。
文明レベルが数段上の女は勿論その原始的な兵器を知っていた。
火薬により、銃弾を発射する。
だが、この世界には、魔法というある意味非常に便利技術がある。
火薬の爆発は大きな音と煙を発するが、魔法であれば、音はともかく煙は発生しない。
狙撃される方は、音を頼りに探しても。叢などに潜んでいれば非常に発見しづらいに違いない。
こうして、魔石を原料とする銃弾が生まれることになる。
魔石は発射薬の代わり(魔法の刻印を発動すると術式で爆発する)で、やはり鉛弾を飛ばすことになる。
鉛は、当たった衝撃と抵抗で、人体の中で大きく花開く設計が採用された。
これは、現代地球では禁止されている人道に対する何とかの為に使用を禁止されている銃弾。
所謂ダムダム弾である。
かつて、インドのダムダム工廠で開発製造されたという、殺傷能力の高いものが模倣された。
女たちの技術では、このようなライフル(アサルトライフル)の製造など何ということはなかった。
というか、現実にはもっと危険で簡単に人間を殺す兵器を持っていたが、やはり浪漫生物の男に忖度して、これを作ってみました的に差し出されたのである。
単純な男は大喜びでこの銃さえあれば、敵を殲滅できるのである!などと気合が入った。
何とも、言えない間抜けな展開がそこにはあったのが現実であった。
女たちは、男の満足をあげることだけの目的で「その通りです。ご主人様」と受け流す。
そうして理想的な包囲殲滅攻撃の舞台は整った。
相手は、剣と槍の兵士だ。
そして相手は、連発式銃を備えている。
どうなるかは明らかだった。
続々と兵馬がやってくる。
そしてその前には、手配されている偽王女を逃がした男がいたのである。
「貴様!そこへ直れ!」
「抵抗するな」
「愚か者どもよ!ようこそ、地獄の入り口へ」
最後の方は、小さな声だったのでほとんど聞こえない。
「さあ、答えよ!貴様らの神の名を!」両手を全開に広げて宣言する男だった。
「愚か者め、我等の神はアーマベルガー神。逃げもせず!何を言っているのだ」
だが、多くの者は知らない。この男は、自分が負けそうになると真っ先に誰よりも早く逃げることを。
つまり、ここにいるということは、勝てる算段をしているということになるのだ。
「早くとらえよ、それほどの腕はないはずだ!」
それすら間違いである。もはや通常の騎士では太刀打ちできないほどには強化されている。そして、走ればゴキブリのように早く疾走する。さすがにまだ飛ぶことはできないが。
「その神の名は、偽神である!」
「撃ち~かた始め!」
この世界で初めて、銃が実戦で使われたのである。
正史上。(だが、正史に記録を残すべき人間がすべて死んだため、この記録は残らなかった)
バババババババババン。
発射音が交錯する。
しかし、火箭も煙も全くでない。
叢の迷彩少女は全く目立つことはない。
崖の上に立つ少女たちが目立つ程度である。見ることができれば。
バナナ弾倉には30発が込められている。
少女銃兵は50人。
一斉射で1500発の鉛玉が飛び交う。
兵士は500名程度である。
銃身は発射熱がないため、焼けることはない。
直ちに、代えの弾倉を見事に付け替える。
そもそも、弾倉には、謎のテープで反対向きの弾倉も張り付けられており、逆さにつければさらに30発を撃つことができたのである。
あまりにも一方的な虐殺だった。
一歩も進めず、皆、血肉の塊になり果てる。
凄惨な景色になる。辺り一面に血の川ができる。
金属鎧などなんの役にも立たなかった。
ブスブスと弾が食い込んで穴が開き、そこから真っ赤な血があふれ出ているだけだった。
鎧の歴史を終焉させたものこそ、銃である。
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