第90話 絡繰り
090 絡繰り
結果から言うと、男等は、余裕で国境を通過した。
そもそも、その戦力では、その男一人すら止めることなどできないのだ。
たった一人でも、100や200は切り倒すことはたやすく行う男なのだ。
しかし、そのようなことすら必要なく突破できた。
それはやはり国王令の存在である。
可哀そうな娘の為に国王が隊長にこの金属片を手渡しという話は、まさに嘘だったが、オリハルコンはこの国では、というか世界では希少なのだ。
ゆえに、偽物を作成しているなどとは、夢にも思いつくまい。
女は、倉庫のオリハルコンで似た感じに作り上げていたのである。
此方の方が、純度が高い分、本物よりもはるかに価値がある。
鑑定では、詳しいことはわからないがこの金属がオリハルコンであることはわかったのである。すでに伝説でしか存在しない国王令の偽物があるなどと考えつくことはできなかったのである。
そして、過去の出来事、盟神探湯(くがたち)についてもここで説明しておこう。
そもそも、高温の湯に手を漬ける行為自体、危険なので絶対に真似をしてはいけない。
しかし、過去には、日本でもそのようなことが行われていたという。
男は、その真偽の判定が盟神探湯(くがたち)であると知ったとき、二つの方法で突破できると考えていた。
一つ目は、氷結の魔法である。そもそも、極冷凍の魔法なので、湯ですら瞬時に凍る。
これを使ってはどうかと考えたのだ。手に膜のように、氷結呪文を配する形にできはしないかと考えたのである。しかし、彼の術は、妖刀の力で身についたものなので、極大威力でしか顕すしかできないことに気づく。要は、大規模にしか発動できないのである。
この場合、周囲を完全に氷結させることになる。
それでも、なんら問題はないが、男は、無罪を勝ち取るには、それではダメだと考えた。
手を入れたら凍りましたでは、無罪にならないであろうと考えたのである。
そして、2つ目の手を実行することにしたのである。
この手は、本当に熱湯に手を入れる必要があり、熱いのは確実である。
しかし、そこは、一心に神に祈れば熱さを忘れることができるに違いない。
まさに、戦国に生きた快川紹喜和尚のように、『心頭滅却すれば火もまた涼し』の境地に達するのではと考えたのである。勿論嘘である。
男が祈る神はこの世界では邪神と呼ばれているに違いない。
男は熱さを何とか我慢しながら、手に治癒魔法をかけていたのである。
そして、手を引き抜いたときに、なんともないふりをしてのけたのである。
これも、単に、レベルアップと身体強化、『人間革命』のなせる技であったのだ。
しかし、男が気にしていたのは、せっかくの無罪判決を勝ち取り、異端審問官を地獄に落としたのだが、自分の無罪が周囲に伝わったのかということのみであった。
無罪になった後、男は騎士団をすべて、館に誘い込み、完全に殲滅してのけた。
だが、これでは、先の無罪判決を人々に伝えるべき人間も抹殺してしまったのではと悩んでいたのであった。
だが奇跡は起こった。いち早く、伝令が無罪を王宮につたえようとその場を離れていたのである。その代わり、そのあとに起こった惨劇は世につたえられることはなかった。
突如、貴族屋敷が大爆発を起こし、木っ端みじんになり果てたのである。
男のいうところの魔法『ツアーリボンバー』のためである。
本当は、サーモバリックボンバーと名付けるべきところを、中二病の男が、恰好をつけて『ツアーリボンバー』と名付けたのである。ちなみに『ツアーリボンバー』はロシアの核爆弾(水爆)の通称である。
街の警備隊がその現場を捜索すると、あろうことか、多くの騎士たち、その兵士たちの無残な死体を何百も数えることができたのである。
だが、その夜、またしても奇怪な事件が発生する。
発掘された死体は、袋に入れられ、並べられていた。
一時に、墓をつくることができないこと、また、検死を行うために置いておいたのだ。
だがその死体が一夜明けると跡形もなく消え去っていた。
しかも、まだ屋敷の跡形に埋もれているはずの死体すらも喪失したのである。
そして、いつまで探しても、死体一つすら発見できることはなかった。
確か、王都でもこれによく似た事件が起こったのである。
だが、その時は、死体を見た者はいなかった。
今回は確実に数百の死体を確認後にそれは消えた。
異常事態であった。
この国は勇者召喚からこちら次々と不吉な事件が発生していたのである。
そんなことは知らない人々は、アーマベルガー神聖騎士団が名前を変えた所為ではないかと影で話あい始めていた。(勇者召喚は対魔王のための行為なので国民には知らされていない)
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