第89話 脱出

089 脱出


メルキアは他国との国境に近い街である。

そして、その街から出ていこうとする集団がいる。

そう、我等が魔王の軍隊とその従者たちである。

その数は200名程度にもなっている。

30人の脱獄囚、100名程度の孤児たち、そして、館勤務の執事やメイドたち。

彼らは皆、王国の騎士団の態を取っている。

30人の脱獄囚たちが、王国騎士の格好をしているのである。


国境の検問所は、砦になっている。

周辺の各国はメルキア迷宮を手に入れたいという野望があるため、国境は厳しく警備されているのである。


そして、今国境はさらに厳しく見張られている。

悪人が国外脱出を図る可能性があるため、出るものを完全に確認するように通達が届いていた。

曰く、隣国の貴族を語る偽貴族が出没しており、脱出を図る可能性があるらしい。

偽貴族の名前は、ルセール・ド・ツク・ゾーレオパルディアあるいは、それに似た名前をかたることがある。この国のゾーレオパルドとはなんら関係がないため、発見次第逮捕せよと。


騎馬隊が先導し、馬車、そして、歩兵そのあとに家人が続く一行がその国境の砦に現れる。

皆、王国の鎧甲冑を着ている。皆、ほとんど正規品であり来ていた人々はもはやこの世にいない。


「失礼します」

「何の行列でございますか」衛兵たちが集まってくる。


「御苦労!我々は、カナデ姫の護衛のものたちである」


「カナデ姫様、はて、聞いたことがありませんが」と衛兵。


「本来はその無礼を首であがなうところだが許す」


「大きな声では、言えぬが、姫はアーマベルガー13世王の庶子である」

「え?」

「姫様の母君は王宮のメイドであったが、ある時王の目に留まられた、そして寵愛を受けることになったのだが、そのことが女王陛下の御勘気に触れられたのだ。姫君の母君は、やむなく王都はずれの離宮で暮らすことになったのである。勿論、名を明かすことも許されずな、死んだことにしてかくまわれたのである。

我ら王女親衛隊が姫をお守りすること十数年、苦節がやっと、みのうろうかというときに、我等は女王様に発見されてしまったのだ」


どこかで、聞いたような話をする男は、淀みがない。

「やっと、お美しくなられたカナデ様、しかし、女王はこの国内においておくわけにいかぬと激怒なされたのだ。しかし、王は、姫が外国に嫁ぎ幸せに暮らしてほしいと、婚姻の約束を外国と交わされたのだ。この想いを汲み、我等はいつまでも姫様とご一緒するべく、婚姻の旅にでることになったのだ」


「しかし、王宮からそのような連絡は来ておりませんが」

「察してくれ、王はそのようなことができぬ、しかし、女王に姫様を殺される前に、他国に出さねばならんのだ」


「では命令書はございますか」

「これほど言っても聞いてくれぬのか、姫様の秘密は皆が知るところではない、そのような命令を、たとえ宰相殿でも出すことはできぬ、女王の不興を買うことになるからだ」


「しかし、今は厳戒態勢で臨むように命令をされておりまして」

「何という悲劇、皆に知られぬ姫の可哀そうなことよ、女王のしるところとなれば、暗殺部隊を送られてしまうというのに」と悲嘆にくれる騎士。


「お前たちは、あの部隊の恐ろしさを知らぬのか?離宮に火をかけ皆殺しにし、女を犯し、財を奪い取る、恐るべき奴らの存在を!」

自分の目で見たように語る男、そう彼は本当にそれをみたのだ。

だから、言葉に重みが加わる。


そして、衛兵たちですらそのような部隊の存在を暗に感じている。

さらに言うと、離宮失火事件は、かつて存在したのである。

貴族間でそのような話が交わされたが、いつの間にか、封印されていった。


だがそれはもっと前の事件だったのでは?


どちらにしても、命令書なくして出国させることはかなわぬことだったのである。

さすがの男も手がないなと感じていた、さすがに無理がある話だからな。

これは強硬突破か、たとえ100人200人いようと問題にしないくらいなのだから。

皆殺しでなんら問題ないのである。


「申し訳ありませんが、命令書をお持ち下さい、それ以外は通すわけにはいきません」


「そうか、命令書だな、それがあれば通すのだな」

「はい、なければ通せません」


男の手が、剣にかかろうとしたとき、馬車の扉が開き、声がする。

「は、姫様ただいま」


男は、帰ってきた。

「命令書はないが、これを見よ!」

それは、かつて見せられたことがある金属片である。

国王令である。

素材が超希少金属オリハルコンでできている。


『これを持つものの声は、国王の命令と同様である』

「これは!まさか!」勿論、国境の兵士如きでは見ること能わず。

だが、その存在だけは聞いたことがあったのである。


「知っておるか、国王令の存在を、では素材鑑定できるものを連れてこい、見ればわかる」

男は悠然と言い放った。

まごうことなきオリハルコンの金属の棒のような物、確かにそれはオリハルコン製であった。


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