第88話 宣告
088 宣告
異端審問官が大火傷を負った。
男は力任せに、頭の先まで、審問官を突っ込む。
「gyaa~~~~~」
審問官は何とか、全身やけどでただれながら、鍋の外に這いずりだす。
手足、顔、そして服で見えないが体のあらゆる部分が火傷を負っている。
全身からもうもうと湯気を立てている。
「どうやら、火傷を負っているようだな、異端審問官はなんらかの背教を行っていることは明白である。よって有罪である。神聖騎士団の諸君、直ちに捕縛せよ」男が宣告した。
彼こそがこの場では正義であり、異端審問官であった。
「ずいぶんと、聖水が減った。直ちに補充せよ!皆の信仰心を試してやろう」
「聖水がありません」何とかごまかそうと兵士が言った。
「そうか、しかし大丈夫だ、聖なる水をもたらせ」男は錬金術で嫌というほど、水を作り出していた。
たちまち、鍋に水がたまる。
「温度が下がっては、風呂と変わらん、焚け」
「もう薪がありません」必死で嘘をつく兵士。
「そうか、だが大丈夫だ、セイクリッドフレイム」男は炎の玉を作り出す。
鍛冶で嫌というほど、火の魔法バーナーを使っていたのだ。
ジュッという音がし、ブクブクと温度が上がっていく。
鍋の中は煮えたぎる。
「さあ、できたぞ、今度は聖騎士団の面々が、その罪を背負っていないか調べてやろう」男が酷薄な笑みを浮かべる。異端審問官は、治癒魔法を受けることができず死んでいた。
「まさか、嫌だとは言うまいな!」圧倒的に有利な戦いのはずが何かの拍子にくるってしまった。今や相手は、たった一人なのに嵩にかかってきていた。
「貴様らの信仰心とはその程度か、自ら手を漬けに来てくれるとおもっていたのだが」男は皮肉たっぷりに嫌味を言う。
「我らは、神聖騎士ではないから、そのような物を受けるいわれはないぞ」と王国騎士団の長。
「嘘をつくな、私も、そのような物を受ける必要すらなかったわ」と男。
「囲んで取り押さえろ!」何と王国騎士団の長が態勢を立て直す。
「無実を今、証明したのに、捕まえるのか?」
「王都でしっかり取り調べてやる」
「また、それか!」男の顔から、ニヤニヤが消えていた。
「貴様らは都合が悪いと、すぐにそれだ。王からしてそれだから始末に負えん」
男は全身から怒りのオーラを揺らめかせる。あの時の屈辱がよみがえってくるのであろう。
「国王の悪口とは不敬であろう、逮捕する」
今度は、王国騎士の長がにやりとした。
「調子に乗るな、お前達の死が確定しただけだ。貴様らは殲滅する」
「たった一人でか」
「そうだな」男の目が赤い光を放ち始めていた。
男は無手だったが、死んだ兵士の剣を抜き放つ。
「貴様!悪魔か!」
「悪魔?違うな、私は貴様らのいう魔王である、控えよ!」
隊長たちが、暴風の直撃を受ける。
風の魔法『トルネードキャノン』が周囲を巻き込み、壁に大穴を開ける。
男の目はついに金色に変化していた。
魔力による身体強化の極致に達したのである。
男は、すたすたと歩いていく。
兵士たちは、呆然と見ていた。
その力は圧倒的なものだった。
数十名が辺りに飛び散っていた。
「悪魔を追え!」聖騎士団の隊長が叫ぶ。
悪魔討伐は彼らの任務である。
当の悪魔は、地下に下りて行った。
その命令で皆が意識を取り戻していた。
地下室への階段に殺到していく。
外で控えていた兵たちにも命令が下る。
館へと突入を開始する。
千名以上が、館へと侵入する。
館の隅から隅まで調べる必要がある。
そして、この館はその程度に人数は入るほどの大きさではあった。
地下には、廊下が一本通っており、脱出用の通路となっていた。
「悪魔め」一人の騎士が切りかかる。
しかし、悪魔は素早くかわして、その騎士の首を狙いすました一撃で跳ね飛ばす。
「ひるむな、相手は一人だ」
しかし、場所が悪かった。通路は一本道、取り囲むのは難しいのだ。
「突撃!」十数人が突撃するが、一本道では避けるべき場所はない。
トルネードキャノンがまっすぐに、兵士たちを巻き込んでいく。
廊下は石組で、跳ね飛ばされてぶつかる場所は必ず石だった。
悪魔は通路の先に消えた。
隠し扉である。
勿論、ロックされるとこちらから行くことはできない。
「破城槌をもってこい!」
そのような物まで持ってきていたのである。
命令を受けた兵士たちが、物資をおいている場所まで走っていく。
その兵士は、その時見た。魔法陣が浮き出るのを。
各所に設置された魔石が初めの魔法で個体から気体へと形質変化し爆発的に体積を膨張させる。そして次の魔法は着火魔法のイグナイトであった。
魔石が変化した気体はその魔法に反応し、爆発的に燃焼する。
ド~~~~ン。
周囲が半球を描くように爆発し炎に包まれる。
兵士はその爆発の衝撃波に弾き飛ばされ、気圧の変化により肺を破壊される。
館の中の兵士は皆、焼死、窒息死あるいは内臓破壊等により全滅していた。
「何という威力だ」アル達は遠くからその光景を見ていたが、震撼した。
「さすが、兄貴っす。これが、ツァーリボンバーの魔法なんですね」
「全く、恐ろしい奴だ」とアル。
それは、魔術的な要素を使っているが、本来は魔法ですらない。
しかし、それを使うために、兵士たちを皆、館に誘いこんでから使う方法を編み出したのは、悪魔的な思考といえるかもしれない。
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